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第539話

「記憶喪失になったアゼルは俺を愛したことを覚えていなくて、俺を愛すると不幸になるアゼルから、俺は離れようとした」 「そうだろ、そうなるよな……」 「けれどアゼルの敵である天使がやってきたので、離れる前に仕留めようとしたら、うっかり俺が死んでしまってな……」 「え? 死? 仕留めるって待て、人間は弱いのに、え、っ?」 「生き返ったから大丈夫だ」 「大丈夫ってなに」  今度は寿命を指摘されたことをきっかけに、その件でお互い泣いて別れた天界事件を思い出した。 「ええと……それでな、俺は死んでもアゼルから離れられなかったのだ。記憶を手に入れたアゼルも、死んだくらいで諦める俺じゃないと泣いていたから、俺たちはそれで幸せだよ」 「し、死んだら諦めるしかないと思うけどな……?」 「アゼルは来世も一緒だから死んでも逃がさないと」 「それはもう呪いじゃないか」  ワナワナと震えるアマダが呆然と呟くが、そんな呪いなら幸せだな、と思ってしまう。不謹慎な俺だ。  それからアゼルを強く想うなら人間の俺は身を引くべきだと考えているアマダは、なにかと問題点を指摘した。  俺が弱すぎるためにアゼルが代わりに傷つくことと、守られるお荷物だということ。  アゼルは俺が弱体化するほど喜ぶので問題ない。俺がむしろ許せないので鍛えている。  アゼルはしょげるが、譲れないぞ。  俺が魔族よりずっと早く死んでしまうこと。  遺されるアゼルがずいぶん悲しむこと。  アゼルは俺が死んだら来世で待っててほしいと言っていたので、それまた問題ないのだ。終わりは終わりではないからな。  ──俺は異世界人だから、名前も知らない相手。  俺の名前はシャルという、この世界でアゼルが最も愛する名前を貰っている。  ──立場に天と地の差があるはず。  養われてばかりだと耐えられないから、付き合う以前にそうそうと起業した。問題ない。  ──連れ添うだけの容姿や能力値は?  容姿は目下かわいいに全振りするべく尽力中だが、アゼルには俺がかわいいの擬人化に見えているようだ。色眼鏡である。  能力値も、仕事ならいつも手伝っているから補佐ができる。大丈夫。  むしろ俺と二人だと早く終わると喜んでいた。戦闘能力は修行中だ。  他にもいろいろと言われたが、全てノープロブレム。  アマダが上げる問題点は、どれもこれも「その話はもう終わったぞ?」と申し訳なくなってしまう問題点ばかりだった。  もうアマダの涙はすっかり乾ききっていて、ひたすら俺を物凄い形相で見つめるだけになってしまう。  困り眉で相対する俺は、どうしてあげればいいのかついにわからなくなってしまった。  それに……もし、もしも間違っていたら俺はとんでもないクソ野郎なわけだけれど、遅ればせながらちょっと気がついたことがある。  アマダは恐らく──俺のことが嫌い、もしくは苦手なんだと思うのだ。

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