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第552話
「この俺がそれ以外を目的にわざわざお前から離れるわけねぇだろうが、バカ野郎め。なんてったって俺だぞ? 自分のものを断固譲らねぇことには自信があるぜ」
「むぅ」
至極当然なことを、言葉にして確認したからだろう。
アゼルは俺の頬を潰し返して、空いている手の人差し指を立てた。
そして俺の部屋に音を遮断する結界魔法陣をかけて、ゆっくりと自分の状況と、現在の問題を小声で語り始める。
「いいか? 俺は精霊族の貴族や上層部の連中……つまり、司祭達に監視されている。やつらは俺をアマダに惚れさせるため、洗脳系の霊法をかけてきた。精霊城は魔王城と同じ。土地と城の力で、霊法の威力を強める」
司祭とは、精霊族の中でも力の強い者が就ける職らしい。
霊法を感知できない魔族であるアゼルでは、彼らが束でかけた罠に気づかず、状態異常耐性があっても暗示程度はかかってしまうはず。
だが、今のアゼルはそれにかかっていない。
どういうことかと不思議に思うと、それを察したアゼルが手首のブレスレットを見せた。
青い宝石のはまったシルバーのブレスレットは、俺が初デートの時にプレゼントしたものだ。
一見なにも変わった様子がないそれが、どうしたというのだろうか。
「これは俺の魔力をユリスが一週間かけて自分の魔力で付与して、更にブレスの内側に古代語を刻んだ、立派な魔導具だぜ」
「むぅぅ?」
「つまりだな、俺専用の〝霊法感知機〟ってわけだ」
(おおぉ……!)
なるほど。これのおかげでアゼルは罠にかかる前に気づけたのか。
俺が瞳を輝かせると、アゼルは得意げに見せびらかしてきた。
親に買ってもらったプレゼントを見せびらかす小学生のようだ。
他国である精霊城へ行くことになったアゼルは、ライゼンさんと相談して、天界との会合を思い出し、感知機を用意することにした。
天族と違って同盟国である精霊族からは、精霊石なる霊力を持った石を輸出してもらっている。
そこから霊力を研究した魔導研究所は、何十年も前から霊力感知機の作成に成功していたのだとか。
とはいえそれを造るには、物凄い量の魔力が必要になる。
アゼルという魔王型魔力補給機レベルの魔力保持者がいなければ、量産は不可能。
これは一つきりのアゼル専用なのだ。
ちなみに魔導具とは、基本的に既にある宝石や装飾品、レア度の高い剣などの武具に魔力を付与し、必要に応じて古代文字を刻んだ道具である。
「精霊界にいる間常に身に付けるなら、断固シャルのプレゼント」とアゼルが言い張ったため、これを霊法感知機にしたのだとか。
うん。アゼルは嫉妬深いが、俺の嫉妬にも気を配ってくれているようだ。
……ちょっと、いやかなり嬉しい。
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