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第592話

 ◇  ユリスとリューオのラブコールをニコニコ眺めること数時間。  通信を終えると、コウモリは疲弊してしまい、俺の服の胸元に潜り込んで出てこなくなってしまった。  詰襟のボタンを三つ外し、顔を出せるようにしてやる。  現代だと国際線の通話料で数時間は、驚きの価格だろうからな。  作り置きのお菓子はなかったのでジャーキーをあげると、コウモリは黙ってカリカリと齧っていた。かわいい。  俺は友人たちの仲睦まじい姿とコウモリのかわいさに癒され、休息は十分だ。  会場でたくさん使った魔力も、そこそこ回復してきた。  リューオはリューオでニヤニヤデレデレと元気百倍である。  おそらく別れ際に「帰ってくんの待ってるんだからね」と言われたのがご機嫌の源だろう。  決戦の時が近づいているというのに、俺たちにはちっとも緊張感がない。  今までは不意を打って危険にさらされてばかりだったが、今回は違う。  全員で共に戦うのだ。  不安なんてない。……見栄を張った。ちょっとはある。  ──そうしていると、地下牢扉が開き、音もなく誰かがこちらへ漂いながら近づいてきた。  青みがかった白髪の男だ。  柔らかにうねるくせ毛が、移動と共に揺らめく。足元は水の塊のようだ。  目鼻立ちの整った面差しは彫りが深く、男らしい。男らしいが美しいアゼルより、逞しさを感じる男前だ。  白を基調にした仕立てのいい貴族衣装を身に纏い、精霊石のアクセサリーを衣装に合わせた男は俺たちの牢の前に立った。  俺はキョトン、とし、リューオは訝しく睨んでいる。 「待たせたな。ようやく日が落ちて、儀式の準備が整った。夜の闇に紛れて、乗り込むんだぜ」  ほうほう、なるほど。  グッと親指を立てる男の声には覚えがあり、俺は同じくグッと親指を立てた。  彼にサムズアップを教えたのは、他でもない俺たちだからな。 「その衣装、とてもかっこいいな。ガル」 「違くね? いやいやいやいや。そこじゃねぇよッ? おかしくねッ? 姿全然違ぇだろうがッ!?」 「うはは、イケメンだろ?」 「あぁ、イケメンだ」 「どうでもいいわァァァアッ!」  リューオの絶叫が地下に響き渡る中、白髪の男──ガルは、声を上げて笑った。  イズナに化けているガルの本体を見たのは初めてだったので、リューオはびっくりしてしまったのだろう。  しかしガルはガルに違いない。  全然大丈夫。俺のビックリ耐性はなかなかのものだ。  地団駄踏むリューオをひとしきり笑い、ガルは牢の鍵を開けてくれた。 「捕らえたのが魔界からの来賓ってことでな? 儀式も始まるから、見張り番を広間へ行かせたんだ。王兄の俺がナシをつけるってことでよう。うはは」 「なるほどな。王位継承で揉めているわけでもない今、王兄が俺たち側の者だなんてまさかでも思わないのか」 「そうさ。元々怪我で権利を失ってからの俺は水が流れるがことく、フラフラしてたからなぁ。他種族を見る旅もしてた。魔王にも、愚弟より先に知り合ってたもんだから、長い付き合いだぜ」  ガルは冷淡そのものだったアゼルがある年を境に年々自分の思ったことを口にするようになっていくのを、司祭として見ていたそうだ。  面食いのアマダはアゼルを好意の対象として見ていたが、ガルはアゼルを興味の対象として認識していた。  リューオが「アイツ面食いなのかよ」と悪態を吐くと「アマダのハーレム見たらわかるし、最終的に選んだのが魅力マックスの魔王ならそうなるだろ」とガルは笑う。なるほど。

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