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第597話(sideアマダ)
「はっ、げ、激流、呑み込めッ!」
「闇。打ち消せ」
我に返って霊法を放つがすぐに魔法で打ち消される。神殿へ近づこうとしても、魔王はそれを許さない。
生物界の頂点である種族、魔族。
その王とは、単体で最強の生物だ。
それが魔王──アゼリディアス・ナイルゴウン。
勝てるわけがない。
騒然とする広場から精霊族が逃げ出し、城の兵士が四方八方から集っていた。
しかしその兵士を押さえつける者たちがいる。
不可視の城に空から集まり、まさか地面へ落下の衝撃をものともせず、恐れもせず、大小姿かたち様々な魔族たちが精霊族を制圧しているのだ。
「ハァッ!? この俺様が最強に決まってンだろォ~ッ? マジクソファック。最強の俺様を全力で殺しに来いよ精霊族、アッ間違えたわ。ザコ霊族ちゃァんッ? アッハッハッ!」
「はぁ……陸軍長官のくせに毎度誰よりも先に特攻する理由がイカレマゾとかいう、ゴミクソスケコマシ。この戦闘終わってから勝手に死ねばいいと思いますが」
「アッヘ! 生っちょろい攻撃じゃカンジネェからァ~! 生っちょろいやつ殺しまァす!」
「殺すなっていう作戦聞いてたか? 今すぐ死ね」
「あっイイ」
フワリと翼をはためかせて降り立ちながら浮遊する精霊族を凍らせて足止めするのは、ハーフヴァンパイアの陸軍長補佐官──ゼオルグッド・トード。
そのゼオに絶対零度の罵倒を受けて恍惚としながら、目まぐるしい体術を駆使して兵士を昏倒させているのが、陸軍長官──マルゴリー・マルゲリーテ
ただ地を歩いて進むだけで真っ赤な絨毯を敷ける、魔界の陸軍筆頭たちだった。
覚えのある猛者。
血の気が引き、顔が青くなっていく。
『シャァルゥ~ッ! タァァロォ~ッ! 夢の相乗り空軍長官は絶好調だろぉ? クッアハハハッ!』
声につられて視線をずらせば、鳥かごが破壊された狼煙へ、最初に突っ込んだ竜が「グオォォンッ!」と声を上げて笑っている。
戦場と化した広場の上空をめちゃくちゃな飛行で攪乱する銀の竜は、魔王がいっとう信頼しているヒュドルド。
空軍長官──ガードヴァイン・シルヴァリウス。
「がどくん! がどくんまってたよ! 私、みんながお迎えにくるの、まってた!」
「うっ、ぐほっ……! た、タロー、シャルはグロッキーになりそうだから、ガドに喜びの背面螺旋回転超速飛行をやめるよう、い、言ってくれないか……」
そしてその背の上で笑っているのは、鳥かごの中にいたはずのジズだ。
魔界での名は確か──リティタロット・ナイルゴウン。魔王の家名を貰った精霊族の娘である。
「あのねっ? しゃるが私のとこにそーっと来てね? かごをばらばら~! 私をだっこ! そしたらがどくんがびゅーんしてどーん!」
『そりゃあ俺は一緒に出発したどの竜より速い最強無敵のおちゃめな銀竜だからなァ~?』
「三半規管が、三半規管がびゅんしてどん、うぇっ」
「がどくんかっちょいぃ~!」
『イヤッホゥッ! 俺はこの瞬間のために作戦を練り、半日かからず超特急で精霊城に軍魔盛りをお届けっちできるようになァ~? 空軍を地獄のブートキャンプしてやったんだぜィ!』
「いやっほ~っ!」
「うぶぇ、た、たろ、ふぐぐぐぅ……っ」
それと共にジズを抱いて青い顔をしているのは、牢に入れられたはずの魔王の妃だ。
異世界からきた人間なのに人間の国に捨てられ、生まれも育ちも能力も美貌も、特別な力なんてなにも持たず、ただ魔王と愛し合って笑うだけの人間──シャル。
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