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第6話 気持ち

どうしてなぜ、今こんな状況になっているのかまったく理解できない。 俺は今、勝威さんの抱き枕になっている。 えっと、ひとつずつ思い出していこう。まず勝威さんがシャワーに入っている間、1人で今日の授業の復習をしていた。シャワーを終えた勝威さんがそれを見つけて、わからないところを一つずつ丁寧に教えてくれた。教え方が意外と上手くてちょっと感動した。 気がづいたらもう日付が変わっていたので寝ることになり、「縁のベッドで寝たらあいつ絶対切れる」という理由で勝威さんは俺のベッドに横になった。 俺は行き場を失くしてソファで寝ようと思ったんだけど「いいから来い。」って有無を言わさない迫力で凄まれて大人しく言われた通りにした。 このとき俺は、貞操とか、いろんなことを諦めた。 おそるおそる布団に入ると正面から抱きしめられた。 そして、これから起こり得ることを想像し緊張しすぎてわけわかんなくなってる俺を尻目に勝威さんは、 寝たんだ。 早かった。俺が布団に入ってから数十秒とかそんなレベルだった。ああ、そう…そっか。なんか俺すげー勘違いしてて恥ずかしい…。さっきあんなことがあった後だったら思うよな!? まぁ。それはそれとして。男同士でこんな抱き合ってるなんてそれだけでも充分…アレだと思うけど。こんな状態で寝れるわけないよ。 ふいに、ぎゅっと抱きしめられていた腕が緩んだ。ずっと胸に顔を埋めているのも苦しいので身体を少し離して隙間をあける。 …ほんとによく寝てるなぁ。 整った顔。背が高いから縁と違って「男らしい」ってイメージなんだけど、良く見たら睫も長くて中性的な雰囲気でもあるんだな。 シャンプーの香りが鼻を掠めた。自分がいつも使っているものと同じはずなのに、勝威さんの匂いと混ざって知らない香りになっている。 あれ、どうしよう。 俺なんか、ドキドキしてない? そんなはずない。縁と高遠さんとか、男同士の恋愛に理解はあるけど俺自身がそんな風になるなんて考えたことも無い。 …考えたことがないだけだったら? 「……寝れないのか?」 突然声をかけられてドクンと心臓が鳴る。寝顔を見てたのバレたかな。薄目を開けた勝威さんと目が合う。 次の瞬間、唇が重ねられた。舌も入ってこない。優しいキス。少しだけ触れてすぐに離れた。 勝威さんの寝息がまた聞こえてくる。 もう駄目だ。確信した。 ドキドキしている。 好きかどうかなんて、そんな気持ちはまだわからない。 勉強を教えてくれたり優しいところもあれば、強引でよくわかんないところもあって。縁の言った通りいい人なのか悪い人なの判断ができない。でも俺が作ったご飯を美味しそうに食べてくれる顔だとか、ご馳走様っていうときの声とか、たまに見せる笑顔に嬉しいと感じてしまっている自分がいる。 そのとき、先程言われた言葉を思い出した。「なんで俺に」って聞いたあとの「理由はない」って答え。勝威さんにとってはただの気まぐれなんだ。こんな風に一緒に過ごすのは最後かもしれない。そう考えると胸がズキンと痛んだ。 今この時間を確かめるように、勝威さんの胸に顔を埋めなおして俺は静かに目を閉じた。

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