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第9話 -4

「九条ってそっち系?」 「なりたくてなったわけじゃない」  確かに初恋は光だったけれど、男が好きなわけじゃない。父に抱かれ続け、市倉や時雨、光にも触れられ、女には一度も触れることなく今まで生きてきただけ。  悟志の言葉に何か理由があるのだとはわかっても言及はしない。男はどう答えればいいのか悩んでいるようで、黙りこくってしまっていた。 「気色悪いと言われる類なのはわかってる」 「あー、いや、そうじゃなくて」 「事実だから、引かれても仕方ない」 「だから違うって。異文化なだけで引きはしねえから」  別に、引いてもらった方がいい。下世話な話をしてくる奴もニヤニヤと笑いながら余計な世話を焼いてくる奴も苦手だ。噂として流されるのは嫌だが、煙草の件があるからきっと言わない。黙って来なくなるのが一番いい。  男がどう捉えているのかとじっと見ていると、吸い殻を携帯灰皿に収納し視線を返してきた。 「女の抱き方も一緒だし体験してみない?」 「抱いたことないから無理だ」 「女側か。嫌がるってことはお前ホモ?」 「……知らない。知りたくもない」  愛される手段としてとっているだけで別に好きなわけじゃない。ふるふると首を振り、俯いた。  自分から求めず、相手が無理に触れてきた時点で身体が動かなくなる。自分からも欲しいと思わなければ動けないし、女相手に触れたいと思わないからできそうにはない。いつだったか、好きな相手ができたときに治してもらえばいいと市倉に諭された。女相手に、好きになれると今の状況では思えない。  男はまた悩み込んでいた。解消する方法がないのなら別に構わない。最悪運動でもしていればいい。体育は嫌いだが、ジムにでも行けないか頼んでみるだけ。  ただの雑談と同じだ。何もそこまでまだ頭を捻らせる必要なんてないのに。 「女食ったことないけど多分どっちもいけるってことでいい?」 「……多分」 「ならセックスしたくないとか言わないでヌいてもらえばいいじゃん。顔見ないように目閉じてたら男も女も変わんねーよ」  柔らかさだとか、匂いだとか、全部違うだろうに。男の言葉に戸惑っていると、手が伸びてきた。大きな掌は悟志の視界を塞ぎ、次の瞬間唇に何かが触れる。下唇を食み、侵入してきた何かが歯列をなぞり、顎をこじ開け舌に絡みついてくる。  苦い。ただそれ以上に、2週間ぶりの接触は喉を鳴らしてしまいたくなるほど気持ちいい。舌が擦れ合うざらつきに腰が跳ね、吐息が溢れた。 「ん、……んっぅ、ん……」 「……ほら、俺相手でも勃ってんじゃん」  それは、この身体が調教され尽くしているからだ。明るくなった視界に映り込む男は唾液で濡れた唇を拭い悟志のそれを見下ろす。  求めてない行為をされたから、身体が動かせない。悟志は、じとりと彼のことを睨みつけるように見上げた。

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