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第12話 -11

 まるで真逆な2人の食事の様子に、時雨も光を覗き込んだ。 「よくそんなに入るよな」 「昔から食べること大好きだったからね! さと、お腹いっぱい?」 「お前のそれ見てるだけで満腹になる」  悟志は一度箸を置き、緑茶を飲む。するとアルが光との間から膝の上へとぬるりと入り込んだ。 「……お前の家の猫、中身犬なんじゃないのか」 「よく言われるよ。箸置いたら食べ終わったと思って膝に乗ってくるから気をつけて」 「今更言うな」  困るが、だからといってわざわざ退かすようなことはしない。  初対面であるにも関わらず懐いてくれているのは嬉しい。猫であっても、自分を認めてくれる相手というものは貴重だから。  アルを膝に乗せたまま食事を再開するも、やはり満腹なのは変わらずにあまり箸は進まない。不味いわけではない。寧ろ美味いほうだ。それなのに食べ進めることはできず、結局少し残してしまった。  ご馳走さま、と手を合わせ、そっと光の方へ皿を押す。光は山盛りになっていた焼きそばをぺろりと食べきった後で、喜んで悟志の食べ残しにも手をつけた。 「ちゃんと食べなきゃダメだよー」 「わかってる」  これでも増えたほうだ。以前は昼食におにぎり一個だけなんてこともあった。ただそれは一人で昼休みを過ごしていた頃の話で、光には知る由もない。  出された食事を残すのは心苦しいけれど、光の満腹の足しにでもなるのならそれでいい。悟志はまだ食事をしている皆の皿の上に毛が舞ってはいけないと、膝の上のアルを抱えテーブルから離れた。  暫くして他の五人も食べ終わる。その頃には悟志は眠気に襲われていた。すぐに眠ってしまうのは同じクラスの時雨からも説明があったが、まさか人の家でまでとは思っていなかったようでウトウトし始めている悟志を光が起こしにかかった。 「さと、起きてー。沖縄何処行くか決めてから寝ようよー」 「……寝てない」 「でも眠いんでしょ。なら先に決めちゃお?」 「……ん」  眠気から、ワンテンポ遅れた返事になってしまう。悟志はこくりと頷くも、すぐにまた船を漕ぎ膝上のアルに顔を埋めてしまった。  所謂猫吸いとは違い、単純に気絶に近い眠気。光はこれを起こし続けるのは至難の技だと早々に諦めた。もうまともに会話することすら許されなくなった中学校時代、教師にどれだけ怒られていてもその場で爆睡をしていたのを思い出し無理だと判断したのだろう。  それに困ってしまうのは宵と冬馬だ。市倉から行動できる範囲を教えられたわけでもなければ、睡眠の様子を知っているわけでもない。顔を押し付けられ膝の上からするりとアルが抜け出しても変わらない体勢に、よく眠るとは言っても限度があると若干引いてしまっている。  光だけでなく、優と時雨も起こさない。学校でも絶対に起きないと光から教えられていた二人は、仕方がないから今は悟志抜きで決められることをと時雨に横にさせられた悟志を横目にパンフレットの類を取り出してきた。

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