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第18話 -12
佐月との話し合いを終えた市倉が帰ってきたのは午後10時。結局一杯だけ飲まされたが酒には強いためその程度で酔いはしない。
悟志は既に眠っているようだ。澤谷は椅子に座り、来訪者を警戒していた。
何も問題はなかったらしい。市倉の部屋は離れたところに悟志の名前でとってあるが、まずは帰ってきたことを悟志に教えるために近付こうとする。
それを、澤谷が止めた。
「兄貴、悟志さん起こす前に話があります」
「……なんだ、何かあったか」
「あったと言えば、まあ。……俺、悟志さんに惚れました。なので兄貴とはいえ俺の前では悟志さんにそういう目的では触らないでほしいっす」
「……坊ちゃんには言ったか?」
「言いました。承認欲求のためにも抱かれるのはやめられないとは言われましたが」
世話係の市倉に正直に話すのはけじめのため。これから自分が護衛を外されたとしても、悟志に惚れたことは正直に話しておくべきだと。
澤谷はその場に正座し、市倉を見上げる。
「悟志さんが18になるまでは絶対に手は出しません。悟志さんがしろって言ってもしません。俺を側に置くことを許してください」
「……それを決めるのは俺じゃなくて坊ちゃんだろ」
「でも、兄貴に信頼されない限りは俺はお側にはいれませんから」
悟志がどれだけいいと言おうが、最終的に側に置いていても安全な人間かを判断するのは市倉。
だから市倉に認められなければいけない。澤谷の言葉に、市倉は嘆息した。
「坊ちゃんがお前が下心ある中でもいいって言ったんなら俺は止めねえ、好きにしろ」
「……有難うございます」
「ただ、触るなってのは聞けねぇな。俺もお前に坊ちゃんを譲る気はねぇ」
「……悟志さんは、大事な人の形見だからもう抱かないって」
「そうだったんだけどな。……お前に懐いてる坊ちゃん見てたら妬けて妬けて仕方なくてな。今更だと自分でも思うんだが、本気で手に入れたくなっちまった」
つまり、澤谷の行動で市倉は本気になってしまったと。好きになってしまった今、市倉が悟志に対して本気だなんて確実に不利な状況だ。
悟志は市倉に対して並々ならぬ感情を抱いている。それが恋ではなかろうと、歪んだ家族愛であろうと、その感情がある限り自分よりも市倉を選ぶ可能性はかなり高い。
それに、自分は18まで触れないと約束したが市倉はキスも、セックスだってしている。本気になったのならこれからも続けるだろう。自ら身体を差し出して愛情を受け入れている悟志相手では、勝ち目なんてない。
それでも、惚れた相手には誠意を。18歳未満の子供に手を出すなんてことは自分はしたくない。
正攻法じゃ市倉には勝てない。澤谷は甘い声で悟志を起こすその様子を、歯噛みしながら眺めるしかなかった。
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