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練る

やだやだと駄々をこねるシキの背中を押す。 落ち着いてきたシキの背筋が伸び、目は真っ直ぐ向いている。 「じゃあ、セイいつも通りに」 「了解」 そう指示を出すシキの横顔見ると、まだ少しやる気無さげで、つい笑ってしまう。 「なんだよ」 「いやあ?別に?」 「相手がどう動くかわからないから、集中」 笑ったことで拗ねたらしい。 今回、三試合とも自警団の演習場で行われている。 演習場と言っても只の体育館のような場所ではなく、戦闘に特化した場所である。 時に、山岳。時に街中。様々なシチュエーションに合わせて場所を変えることが可能だ。 所謂、仮想シュミレータのようなものだ。 今回の舞台は、廃墟。 このステージはまさに軍艦島。 相手がどこにいるのかもわからない。逆に言えば相手も俺達がどこにいるのかわからない。 ルールは簡単、相手を戦闘不能にする。支給された手錠を相手につければ勝ち。 俺達はいつも通りにやるだけ。 相棒である、大剣に指先を滑らせた。 *** 隠れずしばらく歩き続けると、目の前から堂々と近づいてくる影ふたつ。 「フッ…お前達は愚かだな」 「………」 「このような作戦で、二人で別行動を取るのは危険だと思わないのか?」 この場にいるのは、セイと相手方二人。 つまり、1VS2というこのパターンはかなり三番隊側は不利に陥っている。 突然襲いかかる相手二人に、セイは背中にある大剣で後ろに飛ばす。 「……ック、すごいパワーだな。だが、こちら二人に対しそのデカブツは不利だろうッ!」 「……さっきからベラベラとうるせーんだよッ!」 斬りかかる副団長を上から大剣で抑えつける。 「背中がガラ空きよッ!」 後ろから斬りかかられ、セイは咄嗟に後ろ蹴りで相手を吹っ飛ばした。一瞬出来たセイの隙をついてアンがセイの手首に手錠をかけようとした瞬間、 ーーーーー上から、天井が崩れ落ちてきた。 *** 「な、なんだッ…!?」 突然屋上が落ちてきたことに喫驚し、上を向く。 「ーーーーッな!?」 そこにはあの、忌々しい相手。細い身体で天井を突き破り、そのスピード力でジジの手首に手錠をつける。私は上から落ちてきた天井の瓦礫から逃れるために後ろにひいてしまった。いや、 (私が、……………アイツに気圧された、というのか。) これでは、瓦礫の向こう側はジジとあの二人。これでは、形成逆転。こちらが完全に不利である。 *** …………思ったより上手くいってしまった。 良くて、一対一の体制が作れればとか思ったのだけれど、上手く追いやることができたようだ。まあ確実にセイが俺の足音を聞いて場所を調整してくれたんだろうし、わざと大きな音を立てて戦闘をしてくれたおかげで俺も場所の把握ができた。 本当、持つべきものはできる副隊長(あいぼう)だぜ。 少し心配なのが、アン副団長に瓦礫たちが落ちてないかということ。……あの人死んでないよな?まあ、副団長さんだし大丈夫だろ。 「………ちょ、ちょっとアナタ達!!副団長になにしてるのよっ!!」 「ま、まあ、殺してないし」 「ほんっと、サイテー!!」 どうやら副団長のことが大切で大切な彼女は怒り心頭のようで。少しばかりの罪悪感。 「シキ、その女に構ってないで、向こうをどうにかすんぞ。」 「……うん、そうだな」 *** ………瓦礫が阻んで奴らのところには行けない。だが、それは彼方もそうだろう。 さて、彼方はどう出るんだ。いや、彼方の動向ばかり伺うな。私は、第三師団副団長だ。このままではセツカさんに合わせる顔がない。 悔しいが、天井やこの瓦礫を退かせる程力は無いのだ。完全にスピード特化型だな、とセツカさんに笑われたことを思い出す。 ……ここは廃墟ビルという設定で作られた演習場。このビルは10階建であり、戦闘スペースは狭く私には元々不利だったのだ。今俺達がいるこの階は8階。階段は俺の後ろにあるものだけである。 つまり、奴らを待ち伏せし、二人とも一網打尽にするにはあそこしかないだろう。 …………ここにいてはいけない。あそこだ、あそこに行こう。 目指すは、屋上だ。

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