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Savior or devil
カツカツ、と不審がられない程度に早足で会長がいた方角へと近づく。
立場上、会うわけにはいかないが何故彼がここにいるのか、知らなくてはならない。レクサ家も確かオウシュウ家と親交があったはず。それなのにこの場にいるのはあまりに不自然でなにかの意図を感じる。
だが、俺が行ってどうするんだ。正体がバレたら意味がないというのに。
それでも、会長がこの場にいるのは今後の作戦にも支障をきたす。
「お嬢さん、そんなに急いでどこに行くんだい?」
足を止めて、目の前の男を見やる。この人は、確か…
「…お化粧直しに、」
メレフ家当主、ザック・メレフ。随分と美形な男だ…その威圧感はさすが分家とはいえ、一王族の当主だ。男は二コリ、と愛想良く笑う。だが、その目は決して笑っていない。
「あぁ…そうでしたか」
「では、失礼いたします」
俺の危機管理センサーがビンビンしてやがるぜ…これ以上この場にいるのはよろしくないためにさっさと退散するのが吉だろう。俺は踵を返し、その場から立ち去ろうとした。
「…あの、離していただけないでしょうか?」
俺の腕をがっしり掴んだ男は、食えない笑みを浮かべる。こんなにも迷惑だ、という顔をしてやっているというのに…この男…
「美しい方ですね、ここで逃がしたくないというのが本音でしてね」
「…御冗談を、」
さぶいぼが立ちそうなのをどうにか抑え込んで、引きつった顔をも全力で自然な笑みを作る。よくそんな寒いことがスラスラと…恥ずかしくないのか、この男は。
「冗談なんかでは、ありません。貴方さえよろしければ、この後上の階へご招待いたしまよう」
敵の本拠地なんか行けるかよ…!!
どうしよう…なんて言ったら離してくれるんだ。いや、離してくれそうもない。だからと言ってこのままのこのこついていったりなんかしたら、それこそ正体がバレずとも男だということがバレて、そのまま拷問コースだろう。冷や汗が止まらない。
「失礼、貴方は…エレクアント氏のご婦人では?」
声を掛けられ、助かった…!心からの安堵とともに声の主の方を見る。
「ええ…!………」
嬉々として顔を上げたことを心底後悔する。…なんで、お前だよ!!
「どうかされましたか?…ご婦人?」
「君は誰だ?随分と野暮じゃないか」
「大変失礼いたしました。私、レクサ家の長男、タクト・レクサと申します。以後お見知りおきを。」
その綺麗な所作で挨拶を済ませた奴は、俺をチラ、と見て一瞬だが口角を上げやがった。
「…あぁ、君が。噂はかねがね。」
「本来なら私の父がこの場にいるはずでしたのに、申し訳りません。」
「…あぁ、あの方もきっと忙しいだろう」
「ですが、今日は貴方にお会いできて私はラッキーだ、メレフ氏」
少し考えた後になにか思い当たったかのように顔を上げたメレフ氏はニヤ、と笑う。嫌な笑い方だ。すると「今回は諦めるよ、」なんて言って、さっさとどこかへ行ってしまう。なにもともあれ、助かった…。
「…あの、なぜ私のことを…」
「先ほどエレクアント氏が貴方を連れて歩いているのを目にしたもので」
「そ、そうでしたか…では、私はこれで…」
コイツも相当危ない橋だ。早急に退避しなければならない。少し不自然だろうがなんだろうが、俺は本来の目的を忘れて立ち去りたかった。
しかし、現実はそう上手くいかない。
「いいのか?ここでアンタの正体をバラしてやってもいいんだぜ?…三番隊隊長さんよォ?」
俺は神に己の愚かさを懺悔した。
***
会長は俺をパーティー会場の端の方に俺を連れていき近くのソファに俺を座らせる。
痛かった足の筋肉が少し緩和された気がする。
「いつから気付いていたんだよ」
俺が目の前に立つムカつくほどに顔が良い男に向かって睨みつける。確かコイツは俺が第七師団三番隊隊長だと気づいていても学園のシキのことは知らなかったはず。…それならまだここで俺が隊長だということがバレていても問題はないはず。
「…んだよ、」
「は?」
下を向いて小さい声で話すコイツに勝手ながららしくねえな、なんて考える。普段生徒会長として不遜な態度で偉そうに歩く姿を見ているためにこうしてぼそぼそと喋る姿はらしくない。
「お前が!!頭から離れねえんだよ!!!!!」
少し興奮した様子で放った言葉は俺の小さな頭では処理できないものだった。
「…は?」
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