それから夢の続きを見ていた。 『彼』の側に寄り添うように、『彼』が死ぬ時までを眺めていた。 一人になった彼は国を渡り、故郷からうんと離れた場所で地道に金を稼いだ。だが、村で作られた呪いは彼の体質を大きく変えるものだった。彼の周りにいると、不幸が訪れる。 小さいものでいえば、なにもないところで躓く。大きいもので言えば、死。 彼のせいであるという確証はどこにもないのだけれど、人間とは不思議なもので大勢で「そう」だと考えてしまえば、なにも疑問など持つことはない。 そのせいで、彼は職を何度も変え、どこにも彼の居場所はなかった。 彼は『フォレスト』となった。 そこからは俺も知ってる通り、子供たちを使った『蟲毒』を作った。自分と同じような子供を作るため、そして神に近づくため。 一人の子供に目星を付け、その子を『神』候補にする。 ある一定期間、神候補は周りの子供たちと仲良くさせる。そして、子供を一人ずつ捌いてその血肉を神候補に食べさせる。 そして、神候補が最後の一人になった時に全てを明かす。 できあがった呪いが、神候補自身の憎悪によってより濃いものになるのだ。 フォレストは、丸い目でこちらを見つめる。 『こレでマンぞくカ¿』 ＊ 夢から覚めると、見慣れた天井が広がっていた。 どうやら、寮の自室に誰かが運んでくれたらしい。上半身だけを起こして、なんとなく首元に手を寄せる。学生服を着ていたはずだが、寝巻きに着替えていることに気が付いた。 レースカーテンから差し込む太陽の光を眺めていたら、扉が開いてトーカが入ってきた。 ぼんやりと働いていなかった脳が、一気に覚醒する。 「……」 入ってきた男の名前を呼びたかったが、喉が乾燥して上手く声が出なかった。 「気分はどうだ」 腹に響く低い声で話すトーカ。その蒼眼は夜の海のように静かで、調子が狂う。 いつもだったら俺様暴君を大いに発揮して文句を浴びせてくるのに、「心配だった」とでも言いたげな表情を浮かべている。 ゆっくりと近づいてくる。ベッドの手前で立ち止まり、大きな手で俺の頬にそっと触れる。儚くすぐ散ってしまう花でも触るような指先がくすぐったくて自らトーカの掌に擦り寄った。 身を乗り出して長い腕、広い胸で抱きしめられる。こんなにトーカを近くに感じたことは今まで無かった。心臓の音がしっかりと聞こえる。 美しく、綺麗な男がちゃんと人間だったことに安堵する。綺麗な蒼眼がビー玉のようで、全てがあまりに作られた人形のようで、怖かったのだと自覚した。 「そんな顔すんな」 どんな顔だ？と聞き返したかったが、寝巻きの下に手が入り思わず変な声が出る。 背骨をなぞるような動きをするトーカの指先に思わず、胸に縋りついた。 「ちょっ、なにす…ヒッつめた」 「…お前、俺に黙ってたことあるようなァ？」 恐る恐る顔を上げると、そこには鬼がいた。 「ひょえ…」 咄嗟に逃げ出そうとするが、トーカの力には勝てず抑え込まれてしまった。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃ…怒んないでぇえ…」 この暴君のことだ、どうせロクなこと考えていないだろ！とどうにかして許してもらうか、逃げられるように寝起きの頭をフル回転させる。 しかし、いつまでもアクションのないトーカに強く閉じていた瞼をそろりと開ける。すると、猫のように俺の肩に顔を埋めて唸っていた。 「……ちゃんと報告しろよ…」 背中の痣のことを言っているのだろう。地獄の底から這い出てきたような声と行動が一致していない。素直じゃないトーカと、この男の心配を素直に受け取れない俺。 普段では絶対ない距離感とお互い顔が見えていない状況。 しばらく俺達は、何も言わずただ触れあっていた。