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第14話:僕と上司とスカイツリー13

思考が追いつかず、褒められたんだと理解するのに数秒を要した。 「本当に……この方向でいいんですか?」 「ああ、このまま仕上げてくれ。お前に任せとけば、何も問題なさそうだ」 まだきょとんとしている僕に、相楽さんはしっかりと頷いてみせる。 「それって……デザイナーとして、僕を認めてくれたってことですか?」 自分がだいそれたことを言っているんじゃないかと怯えつつ、僕は問いかける。 「あったりまえだろー。認めてないヤツに、こんな大事な仕事を任せたりしない。……ま、お前が使えなければ、この案件は他の誰かにバトンタッチしようと思ってたけどな」 相楽さんがしれっと言ってのけた。 「なっ……徹夜までして働かせといて、それはないと思いますけど!」 「悪かったよ、お前もう帰って寝ろ。今日はもう来なくていいから。その代わり明後日のプレゼンは、ミズキも出席しろよな」 徹夜明けだというのに、相楽さんの顔はこれから来る夏の青空のように晴れ渡っている。 それから彼は、ポツリと言った。 「お前、俺の右手になれるかもしれないな」 「みぎ、て……?」 少しの間首をかしげ、僕は聞き返す。 「それって右腕のことですか? 相楽さんの右腕は、もう橘さんがいると思いますけど」 相楽さんは微笑を浮かべたまま答えない。 その笑顔の意味が分からなくて、胸の端っこに小さな染みのような違和感が残った。 そんな時、事務所の玄関が開く音がした。 「おはよ……。戸締まり忘れてるのかと思ったら、2人まだやってたんだ?」 出社してきた橘さんが、僕たちを見て目をみはる。 「橘さん、ミズキのためにみんなと同じデスクとPCを手配してもらえませんか」 相楽さんが橘さんに、黒いカードをひらりと投げた。 いつものことなのか、橘さんはそれを器用にキャッチする。 「いま買ってあげる気になったの? さすがに席がないままじゃ可哀想だから、僕が勝手に手配しといたよ。今日明日には届くと思う」 橘さんは相楽さんの手元にカードを戻すと、僕に目配せする。 「よかったね、荒川くん」 「はい……ありがとうございます」 昨夜橘さんが言ったように、僕とみんなとの間に溝があるのは確かだ。 けれど席があれば幾分か、この事務所に馴染めるかもしれない。 そう思うと、気持ちがだいぶ軽くなっていた。

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