14 / 58
第14話:僕と上司とスカイツリー13
思考が追いつかず、褒められたんだと理解するのに数秒を要した。
「本当に……この方向でいいんですか?」
「ああ、このまま仕上げてくれ。お前に任せとけば、何も問題なさそうだ」
まだきょとんとしている僕に、相楽さんはしっかりと頷いてみせる。
「それって……デザイナーとして、僕を認めてくれたってことですか?」
自分がだいそれたことを言っているんじゃないかと怯えつつ、僕は問いかける。
「あったりまえだろー。認めてないヤツに、こんな大事な仕事を任せたりしない。……ま、お前が使えなければ、この案件は他の誰かにバトンタッチしようと思ってたけどな」
相楽さんがしれっと言ってのけた。
「なっ……徹夜までして働かせといて、それはないと思いますけど!」
「悪かったよ、お前もう帰って寝ろ。今日はもう来なくていいから。その代わり明後日のプレゼンは、ミズキも出席しろよな」
徹夜明けだというのに、相楽さんの顔はこれから来る夏の青空のように晴れ渡っている。
それから彼は、ポツリと言った。
「お前、俺の右手になれるかもしれないな」
「みぎ、て……?」
少しの間首をかしげ、僕は聞き返す。
「それって右腕のことですか? 相楽さんの右腕は、もう橘さんがいると思いますけど」
相楽さんは微笑を浮かべたまま答えない。
その笑顔の意味が分からなくて、胸の端っこに小さな染みのような違和感が残った。
そんな時、事務所の玄関が開く音がした。
「おはよ……。戸締まり忘れてるのかと思ったら、2人まだやってたんだ?」
出社してきた橘さんが、僕たちを見て目をみはる。
「橘さん、ミズキのためにみんなと同じデスクとPCを手配してもらえませんか」
相楽さんが橘さんに、黒いカードをひらりと投げた。
いつものことなのか、橘さんはそれを器用にキャッチする。
「いま買ってあげる気になったの? さすがに席がないままじゃ可哀想だから、僕が勝手に手配しといたよ。今日明日には届くと思う」
橘さんは相楽さんの手元にカードを戻すと、僕に目配せする。
「よかったね、荒川くん」
「はい……ありがとうございます」
昨夜橘さんが言ったように、僕とみんなとの間に溝があるのは確かだ。
けれど席があれば幾分か、この事務所に馴染めるかもしれない。
そう思うと、気持ちがだいぶ軽くなっていた。
ともだちにシェアしよう!