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第33話:ハワイアン・ジントニック2

「相楽とは、いったいどういう……」 反応を見逃さないよう、早乙女さんの顔をじっと見つめた。 彼女はわずかに眉を歪める。 「相楽くんから、何も聞いてないの?」 「はい、おふたりの関係については、何も」 「じゃあ、あんなところを見て、荒川くんはどう思ったの?」 「え……?」 あんなところというのは、やはり非常階段でのキスのことだろう。 (あの時、僕はどう思うべきだった? 早乙女さんは、どんな答えを想定してる?) 早乙女さんは辛抱強く、僕の答えを待っていた。 腹の探り合いに少し疲れて、僕はその時の気持ちを素直に打ち明けてみることにする。 「それは……ショックでした」 「ショック……?」 「はい、相楽さんのことを信用していたので。もしかしたらうちがコンペで選ばれたのも、提案が認められたんじゃなくて、単におふたりの仲あってのことなんじゃないかと思って」 すると早乙女さんは、キッパリと言ってくれる。 「それはないよ」 「……本当ですか?」 「うん、あの提案は本当に素晴らしかった」 彼女の瞳は少しも曇っていなかった。 「だったらどうして早乙女さんは、あの時……相楽さんと」 聞きながら、わずかに身を乗り出す。 コンペのことが関係ないなら、2人は純粋に恋愛関係なんだろう。 だったら僕が立ち入ることじゃない。 頭ではそう考えていたのに、やっぱり聞きたかった。 「ごめんね」 早乙女さんに小さく謝られて混乱する。 「どうして謝るんです?」 「だって相楽くん、荒川くんのなんだよね?」 「えっと?」 言葉の意味が分からずに、更に混乱した。 「大丈夫! 誰にも言ってないから」 「いやいや、待ってください! 早乙女さん、何か誤解してません? 僕と相楽さんは、そういう関係じゃなくて」 「じゃあ、どういう関係?」 「どういう関係って……」 (社長と従業員で、上司と部下で、それから同居人で……。なんか勢いでキスとかされちゃったけど、付き合ってはいなくて?) 言葉にするのは難しい。 「多分、相楽くんは荒川くんのことが好きなんだと思う。だって彼、あなたと話す時だけ雰囲気が柔らかくなるから」 早乙女さんの思いがけない言葉に戸惑う。 それから打ち合わせ中、僕に話しかける相楽さんを想像し、胸がきゅっと甘く疼いた。 「僕にはちょっと、よく分かりません……でも早乙女さんは、相楽さんのことをよく見てるんですね」 そんなふうに返すと、彼女は困ったように笑って、また口を開いた。 「私たちね、4年くらい前まで付き合ってたの。その頃は相楽くんも雇われデザイナーだったし、私も違う会社に勤めてて」 「ああ、それで……」 胸につかえていたものが、すとんと落ちた。 (非常階段でのあれは、そういう意味のキスだったんだ) 恋人同士だったふたりのキス。 気持ちがこもってみえて当然だ。 「じゃあ、今でもおふたりは……」 「あー、それは違うの!」 早乙女さんが慌てたように否定する。 「再会して運命感じちゃったけど、告白したら、見事にフラれちゃった」 「えっ、フラれた?」 「うん! だから私、2人の関係を疑って」 彼女は大げさに顔をしかめてみせる。 せっかくの美人が、子供みたいな顔になった。 (つまり……あの時相楽さんは、早乙女さんの告白を断って、抱きしめてキスをした? いや、それとも早乙女さんから?) さすがにそれは本人には聞けない。 けれども相楽さんは、あのキスに意味なんかないと言っていた。 (だったら僕とのキスには、何か意味があったんですか? 相楽さん) ここにはいない彼に、胸の中で問いかける。 期待したらまた痛い目をみると思いつつ、胸がざわついて仕方なかった。 * それから夜間のフライトを挟み、翌朝。 僕たちはハワイのオワフ島にいた。 「うわっ! まぶし……」 空港から乗ったリムジンバスを降り、真っ白な日差しにやられそうになる。 商店がゆったりとした間隔で立ち並ぶ明るい通りに、南国風の街路樹が緑の枝を広げていた。 どこか現実感のない景色に驚いていると……。 「ミズキ、ミズキ!」 相楽さんが僕に手招きし、露天のサングラスを無理やりかけてくる。 「なんですかこれ……」 「変なサングラス! っていうか、お前がかけたら普通にイケメンだし……」 彼は残念そうに言って、僕の顔をしげしげと見つめた。 「ミズキはマジでイケメンだな、結婚して」 「しません」 いつもよりかなりテンションの高い相楽さんに呆れる。 今はみんなと一緒なのに、仕事の時の相楽さんではなく、家での彼みたいだ。 (そっか、オフなんだな……) 相楽さんのノリの違いに、僕はそんなことを実感する。 「そこ、何いちゃついてるの? ちゃんとついてきて!」 みんなを先導して歩いている、橘さんの声が聞こえてきた。

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