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第6話トリップ6

スウェナ王国は人口が一万人程の小さな国である。そこの十五代国王の次男としてアデルは生まれた。兄のクロードと共に未来の国を創るため、国王の息子としてできる限りの英才教育を受けて育つ。 真っ直ぐで、曲がったことが嫌いなアデルに対し、兄のクロードは物事を斜めにみるような歪んだ性格をしている。次期国王は、ほぼ兄に決まっているが、実はアデルをという声も根強い。 国王は荷が重く、なりたいと思ったことは無い。感情的になりやすい自分よりは、常に冷静な兄が適任だと、アデルは思っていた。 アデルは一族の中でも、顔立ちと身体付きが特に麗しい。美しい黄金の毛並みは生まれつきである。逞しい筋肉に覆われた胸板は、屈強な兵士に負け劣らない。 特に、横顔が淡麗で、希望に満ちた眼差しは、見ている者を虜にさせた。王宮は彼の隠れファンで溢れている。 そんなある日、アデルの部下であるコニスが、ある噂を仕入れてきた。 兄のクロードが麻薬売買に関わっているというものだ。 近年、麻薬に対しては、アンダーグラウンドで大きな問題になっており、犯罪まがいの行為が横行している。いたちごっこのやり取りに、父は頭を悩ませていた。 本当に兄が関係しているのか、噂の真相を確かるべく町へ出掛けたところ、翔太に巡り会ったのだ。結局、調査を中断して翔太を勢いで連れ帰ってしまう。 生意気なヒヨコに何か一言言ってやろうと、翌日に医務室へ向かう。医務室は、アデルが兵士を束ねる役職になった際、国中からありとあらゆる薬草を集めさせた部屋である。有能な医師を呼び、病気や怪我を治すための治療薬や、効率の良い手当方法を研究させていた。城の隣に大きな病院を作るのがアデルの夢だ。 キノから翔太の容態はまだ回復せずと聞いていた。生意気なガキは、減らず口を叩くであろう。暇潰しに丁度よいとアデルは医務室のドアを開けた。 だが、医務室にはキノの姿はなく、室内は静まり返っていた。うっすらと人の気配が奥の方でする。王族は、いつ命を狙われるか分からないため、アデルは人の動向を察知する訓練を日頃から受けていた。 「すぅー、すぅー……」 奥のベッドで、気持ちよさそうに寝ている翔太を発見した。 白い寝巻きを着用し、子供のように両手を上げてバンザイの格好で熟睡している。小さな胸が寝息に連動して上下した。つるんとした白い額はゆで卵を彷彿とさせ、思わず笑みがこぼれてしまう。 それにしてもこんな無防備に寝ていて、身に危険が及んだ時はどうするつもりなのだろうか。 開いた窓から風が入り、カーテンが心地よく揺れる。 昨日とは打って変わった翔太の可愛い寝姿に、アデルは戦意を喪失した。 ここ数日、兄のこともあって、まともに睡眠をとれていなかった上、精神もささくれたように尖っていた。 なんだかヒヨコを見ていると、人の汚れた部分や、しがらみが下らなく思えてくる。 側にあった椅子に座る。暫く翔太を観察しているうちに、アデルも寝てしまった。

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