1 / 1
『魔女と堅物男の恋模様』番外編【熱いミルクをちょうだい】
優希はその日、朝からずっとそわそわしていた。今日はホワイトデー。優希は先月のバレンタインに、父へ手作りのガトーショコラを贈っていた。見返りを求めていたわけではないけれど、どうしても期待してしまう。
――お返しは物じゃなくていい。今夜一晩、どんなお菓子よりも甘い、素敵な夜を過ごせたらそれでいい。
(去年は一緒に外食しただけだったけど、今夜はうちでエッチしたいな……)
大学の講義中だというのに顔がにやけてしまって、隣に座っていた友人に不審な目で見られてしまった。
(ああ、早くパパに会いたい……)
父が仕事から帰ってきたらまずはキスをして、食事も後回しでベッドに飛び込みたい。あのたくましい腕の中でうんと感じて、幸せいっぱいの一日にしたい。
欲望ばかりが加速して、思わず下半身に熱が集まってしまいそうになった。これはいけないと、太ももをつねって冷静さを取りもどす。
その日の講義が全て終わり、仲間とは早々に別れて自宅へと向かった。
「おかえりなさい、パパ」
「ああ、ただいま」
ホワイトデーということで、無意識にいつもより豪華な夕飯を作ってしまった。温かい食事がテーブルの上に並んでいる。けれど、食べるのは後回し。食べるより早く食べられてしまいたい。
コートを脱いでハンガーにかける父をとろけるような眼差しで見つめてしまう。うっとりと欲情した瞳。それに気づかないほど、父――誠一郎は鈍感ではなかった。
「……どうしたんだ、優希」
「どうって?」
「襲われたいっていう顔をしてる」
頰に無骨な手が触れる。優希の顎を取り上向かせると、誠一郎は潤んだ大きな瞳を見つめた。
――これは、いやらしく犯されたがっている雌の瞳だ。
そんなことを実の息子に思ってしまうなんて。生真面目な誠一郎は眉を顰めた。何度も身体を重ねた二人だが、やはり血の繋がりのある親子としての罪悪感がつきまとう。
しかし優希にとってはそんな罪悪感でさえ、セックスのスパイスにしかならないようだ。
「パパ……今日がなんの日か知ってるよね」
「ああ。もちろん、お返しはここに――……」
「キスして」
仕事鞄の中から可愛らしい包装紙に包まれている箱を取り出すが、優希は受け取りもせず誠一郎の胸に顔を埋めた。
「パパと……エッチなこと、したい」
「優希……お前」
「お返しは……パパの熱いミルクがいいな」
誠一郎の顔がカァッと熱くなる。
なんていうことを言うんだ。そう叱りたい思いと、湧き上がる劣情の狭間で心が揺らいだ。愛しい息子が、自分を求めている。言葉だけでなく、優希はいやらしく腰を擦り付けて父を誘った。
「ベッド、いこ?」
「いや、シャワーを浴びないと」
「そんなのいいから、はやく――」
太い首に腕を回して、優希はぎゅっと誠一郎に縋り付く。
もはやそこに言葉はいらなかった。誠一郎は性急に優希の腰を掴み、抱き寄せる。唇が重なり、舌がクチュクチュと絡み合った。
二階のベッドに行くまでの時間さえ勿体無い。リビングのソファへ雪崩れ込んで、何度も角度を変えてキスをする。啄ばんだり、優しく吸ったり、込み上げてくる愛しさをぶつけ合うようなキスに、優希は幸せで身も心もとろけてしまいそうだった。
「パパ……っ」
「優希は悪い子だな。こんな風にいやらしく俺を誘って……お仕置きをしてやる」
ツンと尖った乳首をシャツの上から抓られて、優希は「あぁ……!」と濡れた声を漏らした。
「いい子にできたら、お前が欲しいものを全部やろう」
「んっ……おしおき、して……僕、いい子になるから……」
はぁ、と熱いため息をつき、優希は艶然と微笑んだ。
――甘いお菓子もとろける夜が、もうすぐそこまで来ている。
ともだちにシェアしよう!