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第22話

「っていうか、音無さんだけじゃなく他のやつらも共犯なわけか!」 部員の音無さんならともかく、他のやつらにあんなことをされる覚えはない。 「……というより、音無さんはそそのかされただけだと思うよ。ほら、普段から他のみんなの方が泉くんのこと意識してるから」 月形は困ったように息をついた。 となると首謀者はチョークあたりだろう。 (だとしても……) いつもの空き教室の窓を見上げて思う。 音無さんのあの言葉は、きっと本音だ。 ――書かない人間は、文芸部には必要ない。 ひどく苦しそうな声が耳に残っていた。 「……泉くん?」 ふと足を止めた俺に、月形が声をかけてくる。 「……ああ、悪い」 「どうかした?」 言うべきかどうか迷ったが、こいつには言って置いた方がいいだろう。 突然俺が来なくなっても、不安がらないように。 「実は、音無さんに言われたんだ。書かない人間は部には必要ないって」 「えっ……」 月形は目を見開き、何度もまばたきする。 「あの音無さんがそんなことを?」 「ああ、そう言ったように聞こえた」 「…………」 人気のない通用口の前で、俺たちは立ち止まり、見つめ合っていた。 月形がつぶやくように言う。 「泉くんは書かないんじゃない、いま書けない時なだけなのに……」 (え……) 突然聞かされた核心に迫った言葉に、俺は思わず息を呑んだ。 「お前っ……そのこと……でも……」 俺は「書けない」なんてひとことも言ってない。 けど、書きあぐねているのは本当だった。 月形のセルフレームの奥の瞳が、雲のない夜の満月みたいに俺を見透かした。 「書けないっていうのには語弊があるかな。満足のいくものが書けない、そんな感じ?」 ぐうの音も出なかった。 トイレに行きたかったのも忘れて、急にのどが渇きだす。 月形の言う通り、俺はここへ転校してくるより前から書けずにいた。 書けなくても、出版社からは電話がかかってくる。 書けないでいるのに、会う人ごとに過去の作品を褒められる。 次回作も楽しみにしている――そんな社交辞令みたいな言葉が、いちいち胸にのしかかっていた。 期待の高校生作家、その肩書きが重すぎたんだ。 正直、たまらなかった。 だから俺は、この高校へ逃げてきた。 そのくせ人の作品は、いろいろと理由を付けて見下していた。 月形のことだって完全に下に見ていた。 それをこいつは、全部、気づいていたっていうのか。 のどが乾く。 本当に、何も言えない。 「泉くん、キミは……」 月形に手を引き寄せられて、手をつないだままだったことを思い出した。 「キミはそこから抜け出せない人じゃないよね?」 彼は目を逸らさずに、俺の手の甲に唇を押し当てた。

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