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第28話

俺はなんとか気を逸らし、説得を試みる。 「お前さ、もっと自分を大事にしろよ。たかが部員1人を呼び戻すために、そこまでする必要はないだろう」 すると月形が、いきなり首に抱きついてきた。 まだコーヒーを持っていた俺は、それをこぼしそうになって慌てる。 「わっ、ちょっ!」 跳ねた飛沫が手にかかった。 「僕がそのためだけに、こんなことしてると思ってる?」 「……はっ?」 混乱してしまって、すぐには思考が追いつかない。 「キミのこと、好きだからに決まってる。そういう意味で、僕は充分自分を大切にしてると思う」 「……はあ、そうか」 って納得できるわけがない。 「いや、俺がお前に好かれる理由が分からない! 書くものについてならともかく……そういう意味で好かれるのは……なんか違うだろう」 なんか違う、と言っても何が違うのか自分でもよく分からなかった。 ただ、同性にも異性にも、性的な意味で好かれる心当たりがまったくない。 「……鈍感だなあ」 月形が耳の後ろでため息をついた。 「そういう意味でも、僕はキミのことすごく好きだよ」 「は……俺なんかのどこがいいわけ?」 答えを聞くのも怖いんだが、興味が先にたって聞いてしまう。 「遠慮がないところとか、見た目はまあ普通なのに自信満々なところとか?」 「それはお前だろ」 月形の答えにちょっと呆れた。 けれども彼は言い返してくる。 「僕は泉くんみたいに辛辣なことは言わないでしょ」 (こいつ、俺が処女作をこき下ろしたこと気にしてんのか) 辛辣と言われてそれに気づいた。 人に褒められ慣れているこいつは、けなされるのが新鮮だったんだろう。 ふとそんなことが思い当たった。 そういうことで好かれても、困るんだけどな……。 「けど、それでなんだか泉くんのことが気になってしまって……」 月形が続ける。 「この幸薄そうな一重まぶたとか、そばかすも好きになっちゃった」 首元から顔を上げたこいつに、そばかすのある鼻筋を撫でられた。 「……だからダメ? 僕じゃ」 そんなふうに切なげに見つめられても困る。 こいつに迫られて、ほだされないでいられる人間がどれだけいるだろうか。 俺がテーブルにカップを置くと、月形は眼鏡を外した。 前髪がぶつかり、額がこつんと合わさる。 今までにない距離だった。 男に落とされる日が来るなんて、思いもしなかったのに……。 落ちたんだろうな、俺は。 俺は自分から、こいつの唇の内側を求めた――。

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