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こどものきもち
「ユズーっ、ドッジボールやって帰ろうぜ!」
「悪りぃ、イチゴが待ってるから帰るわ」
「「えーっ!」」
ブーイングしてくるクラスの連中に謝りながら、ランドセルを背負って教室を出る。ランドセルの中には、苺が好きな給食のプリン。風邪で休んだ苺へのお土産だ。
苺はオレの双子の弟。
だけどガキ大将のオレと違って、身体があんまり強くない。
風邪ひとつ引かない丈夫なオレと、すぐ熱を出す苺。
勉強が苦手で外で遊び回るのが好きで、真っ黒なオレと、家の中で本を読むのが好きで、色白で女の子みたいな苺。
父ちゃん似のオレと、母ちゃん似の苺は、双子だけど顔も似てない。二卵性だから、きっと男と女の双子だと思ってた父ちゃんと母ちゃんは、柚と苺って名前を用意してて。
生まれたのはどっちも男だったけど、苺は生まれたときから女の子みたいに可愛いかったから、そのまま名付けられた。
生まれたときから、オレと苺はずっと一緒。
外で遊ぶのが大好きなオレだけど、苺と一緒なら家でゲームして過ごすのも全然嫌じゃない。
苺は本が好きで、4年生なのに上級生が読むような本もたくさん読んでるし、オレと違って成績もすごくいい。
オレと苺は正反対だけど、オレは苺が大好きなんだ。
大事な弟で大好きな親友、それが苺。
「母ちゃん!イチゴの熱下がった?」
「ユズっ、ただいまが先でしょ?」
家に帰り着くなり挨拶も言わずに、オレたちの部屋に行こうとした、オレの首根っこを母ちゃんが掴む。
「イチゴの傍に行くのは、手洗いとうがいをしてから!」
「…はあ〜い」
早く苺のとこに行きたいけど、ウイルスを持ち込むわけにいかないから、大人しく洗面所に向う。
「熱はだいぶ下がったけど、まだ調子は良くないから騒いじゃ駄目よ?」
「わかった」
母ちゃんからおやつを貰って、いつもはバタバタと駆け上がる階段を静かに上がり、そっと部屋のドアを開けた。
部屋に入りおやつを勉強机に置いてから、二段ベッドの下を覗く。
「良かった。朝よりだいぶ顔色が良くなってる」
苺の額に手を置いてみると熱もないみたいだった。
「…ん」
もぞり、と身動ぎした苺の瞼がゆっくりと開く。
「ユズ…?」
「ごめん起こした」
「…ううん、お帰りユズ」
オレに向かって伸ばされた苺の手を取り、静かに起こしてやりながら背中にクッションを置いてやる。
「しんどくないか?」
「うん、もう熱下がったし平気だよ」
そう言って苺は笑う。
オレは病気になったことがないから、そのしんどさが分からない。でも前に食べ過ぎて、腹が痛くなったときスゴく辛かった。
病気はきっと、その何倍も辛いんだと思う。
だけど苺は今よりちっちゃかった時だって、しんどいなんて言わなかった。
苦しそうな苺を見てると、オレの方が苦しくなる。そしたら苺はオレを心配させないように、苦しいのに笑いかけるんだ。
苺は身体は弱いけど、心はきっと誰よりも強い。
苺はオレの自慢の弟。
オレは苺と兄弟で良かったっていつも思ってる。
苺の熱は次の日の朝にはすっかり下がっていたから、今日は一緒に学校に行けることになった。
本当はもう一日くらい休んだ方がいいと思うんだけど、休みがちな苺はなるだけ学校に行きたがる。
ふつうだと兄弟はおんなじクラスにはなれないんだけど、苺は身体のことがあるから一緒のクラス。
オレは勉強は苦手だけど、運動はとくいだからオレと遊びたがる奴はけっこういて、友達も多い。
教室に入って挨拶すると、クラスの男子はオレに、女子は苺に声をかけてくる。
「ユズっ!今日の昼休みはドッジボールやろうぜ」
「イチゴくん、風邪もう大丈夫?」
自分の席に着いたオレたちは、それぞれの友達と喋る。外で遊んだり出来ない苺は、優しい性格もあって友達は女子ばかりだ。
反対にオレの友達は男子ばっか。特に元気のあるやんちゃなヤツと仲がいい。
「ユズ、今日は絶対勝つからなっ」
そう言いながら真也がオレにおぶさってきた。
「シンヤ重いっ!」
「昨日ユズが先に帰っちゃったせいで、2組のヤツラに負けちまったんだぜーっ」
「今日は大丈夫なんだろ?」
真也をはじめ、みんなが放課後のことを言ってくる。
いまオレたちの学年では、クラス同士でのドッジボールが流行っていて、対戦成績はオレたち3組が一番だ。
オレとおんなじくらい運動が得意な真也と組むと、たいていの試合は勝てる。真也はクラスで一番仲がいい、オレのもう一人の親友だ。気も合うし真也と遊ぶのは楽しい。
「わかった、仇打ちはまかせとけ!2組になんか負けてたまるか。なあシンヤ」
「それでこそユズだ!昼休みは特訓しようなっ」
そうして昼休みはシンヤたちといっぱい練習して、2組へのリベンジに燃えていた。だけど五時間目の途中で、苺の具合が悪くなって保健室に運ばれてしまった。
風邪で体力が落ちてたせいで疲れただけだから、ゆっくり寝てれば大丈夫だって保健の先生が説明してくれたからホッとした。
でも、今日は母ちゃんのパートの日だから家には誰もいないし、迎えにも来てもらえない。だから授業が終わったら担任の先生が車で送ってくれる事になった。
苺のと自分の荷物を持って、教室を出ようとしたオレにシンヤが声をかけてくる。
「ユズっ帰るのかよ!イチゴなら先生が送ってくれるんだろ?」
「ごめんシンヤ、今日母ちゃん仕事でいないんだ。オレがついててやらないと」
「…せっかく特訓したのに」
「ホントごめん、明日はぜったいに一緒に遊ぶから。悪いっ」
顔の前で両手を合わせてシンヤにわびる。
約束をやぶるのは辛いけど、苺を一人にはできない。他のみんなにも謝って、急いで教室を出て行った。
「…いつもいっつも、イチゴばっかり…っ!」
だからシンヤが悔しそうに言った言葉は、オレの耳には届かなかったんだ――。
「イチゴ大丈夫か?」
先生が部屋まで送ってくれて、着替えさせてから苺をベッドに寝かせた。
「のど渇いてないか?なにか取ってこようか」
「ううん大丈夫だよ。ありがとうユズ」
だいぶ顔色も良くなってきたけど、まだキツそうな苺に胸がズキッとする。苺の体調はまだ万全じゃなかったのに、なんでオレはちゃんと苺のことを見ていてやらなかったんだろう。
「熱もないし、寝ていたら大丈夫。だからユズは学校戻りなよ、シンヤくんたちとの約束があるでしょう?」
落ち込むオレに、苺はとんでもないことを言ってきた。
「バカなこと言うなよっ!イチゴを一人になんか出来るワケないじゃんっ」
思わず大きな声を出してしまったけど、具合の悪い苺を放って遊びになんて、行けるワケないじゃんかっ。
じっさい、昼休みだってオレがちゃんと傍にいたら、苺の具合にだって早く気付けたんだ。
「心配してくれるのは嬉しいけど、ボクのことばかり気にしてちゃ駄目だよ」
「なんでだよ。アニキがオトートを心配するのは、当たり前のことじゃんかっ」
オレが苺のことを先に考えるのは当たり前なのに、なんで苺はこんなこと言うんだ?
「でも…、他のみんなもユズと遊ぶのを楽しみにしてたから、ユズがいないときっと寂しいよ」
「大丈夫だって、オレがいなくったってシンヤがいるし」
そうだよ。クラスのみんなや真也には悪いけど、オレは苺を守ってやらなきゃいけないんだから。
「…シンヤくんが、一番ユズと遊びたいんじゃないの?」
「シンヤはオレの親友だからわかってくれてるって!もういいから寝なよイチゴ」
苺はまだなにか言いたげだったけど、そのまま目を閉じて眠ってくれた。それに安心したオレは、どうして苺がそんなことを言ったのかなんて、全然考えもしなかったんだ。
次の日教室に入ると、オレはすぐに真也のとこにかけ寄った。
「シンヤっ!昨日はごめんなっ」
隣の席の知宏としゃべっていた真也は、オレの方をちらりと見たけど、そのまま知宏としゃべり続けた。
あれ…?聞こえなかったのかな。いつもだったら文句のひとつふたつ言ってから、ニッと笑って話してくるのに。
真也の態度にとまどっているうちに、チャイムが鳴ってあわてて自分の席に着く。
また後で話せばいいか…。ランドセルから教科書を出しながら、オレはそんな風に思っていた。
だけどそのあとの休み時間に話しかけても、真也はオレを無視した。
休み時間ごとに話しかけても、ずっと無視する真也にオレもだんだん腹がたってきて、昼休みにはオレも真也を無視した。
なんだよ真也のヤツ!ちゃんと謝ったのに。
真也がその気なら、オレだって真也のことなんか知るもんかっ。
親友のくせになんだよっ!
真也に無視されたショックは、だんだんと怒りに変わってった。
その日は一日中、真也と口をきかずに、お互い知らんぷりして過ごした。
なんだか、胸の中がむかむかする。
だけど真也が謝ってこないなら、仲直りなんか絶対しないんだからなっ。
学校からの帰り道、足元の小石を蹴り飛ばしながら歩く。
「…ねえユズ、シンヤくんと仲直りしてきなよ」
なのに、隣を歩く苺がオレにそんなことを言ってきた。
「なんで、オレから仲直りしてやんなきゃなんないんだよ!オレはちゃんと謝ったのに、シンヤのヤツが無視するから悪いんだっ」
苺の方は向かずに、足元の小石を思い切り蹴っ飛ばしてオレは叫んだ。
「でも、シンヤくんはきっと寂しくてあんな態度とっちゃったんだと思う。お互いに意地を張り合ってたらずっとこのままだよ。そんなのユズだって嫌でしょう?」
まるでオレが悪いみたいに言う苺に、また胸がむかむかしてきて大きな声で言い返した。
「べっつに、シンヤとなんか遊べなくたってヘーキだっ!あんなヤツもう親友なんかじゃねえよ」
「ユズ…っ!」
焦ったみたいな苺の声と、オレのシャツを引っ張る手。それにつられて顔を上げると、目の前に真也が立っていた。
「あ…っ」
真也は泣きそうな怒った顔で、オレに向かって叫んだ。
「…オレだってユズなんかもう友達じゃないっ!二度とオレに話しかけんなっ」
「待って!シンヤくんっ!ユズっ、追いかけてっユズ!」
苺がオレのシャツを引っ張って、ずっと叫んでたけどオレは動くことが出来なかった。
家に帰ってからずっと、さっきのことばかり考えている。きっと真也は謝りにきてくれてたんだ。
なのに、オレが意地はってたせいで真也を傷つけた。
真也の態度に腹を立ててたけど、そうさせてしまったのはオレだ。オレは自分に都合よくみんなが思ってくれるって、勝手に思い込んでた。
先に約束を破ったのはオレなのに、苺のことだから真也もみんなもわかってくれるって、甘えてたんだ。昨日、苺が学校に戻るように言ってくれたのは、だからだったんだ。
「…よしっ、」
ぐっ、と手を握りしめて気合いを入れる。
「母ちゃん、オレちょっとシンヤんちまで行ってくる」
「今から?もうすぐ夕飯なのに、真也君のお家にもご迷惑でしょうし、電話じゃ駄目なの?」
「ダメっ!ちゃんとシンヤに直接言わなきゃダメなんだっ」
ちゃんと真也の顔を見て謝らなきゃ、本当の気持ちは伝わらない。
「あ、そうだ」
苺には心配かけちまったし、謝りに行くって言っとこう。そう思ってリビングを覗いたけどいなかった。
「母ちゃん、イチゴは?」
「苺?部屋じゃないの?」
「部屋はオレしかいなかったよ」
トイレや母ちゃんたちの部屋も見たけど、苺はどこにもいなかった。玄関を見たら苺の靴がない。どこかに出かけたのか?
でも苺がなんにも言わないで出かけるなんて、したことないのに…。
「まさか…」
家に帰りつくまで、苺はずっと真也のことを気にしていた。オレと真也が喧嘩したのが、自分のせいだって思ってたりしたら…。
オレは急いで真也の家を目指した。
走って走って、もうすぐ真也の家に着くってときに、声が聞こえてきた。真也の家の近くの児童公園。よく真也たちと遊ぶその場所から、聞こえてきた声は苺と真也のものだった。
はずむ息を整えながら公園に足を向けると、ブランコの向こうに真也と苺の姿が見えた。
「シンヤくん!ユズと仲直りしてあげてっ」
オレの耳に聞こえてきたのは、苺の必死な声。
「なんでイチゴが口出ししてくるんだよっ!オマエには関係ないだろっ」
「だってユズとシンヤくんが喧嘩してる原因は、ボクだから…。ボクのせいでユズと遊べなくなったからでしょう?」
ああ…、やっぱり苺に気にさせてしまってた。
当たり前だ。苺はずっと真也たちのことを気遣ってたのに、オレが軽く考えてたせいで仲たがいして。
オレと真也の喧嘩した姿を見た苺がどんな風に思うかなんて、ちっとも考えてなかった。
「そう思うんならオマエも具合が悪いのに、無理して学校くんじゃねえよ!」
二人の姿に出ていくタイミングをのがしてたら、真也の怒鳴り声が聞こえてきた。
「イチゴがそんなんだから、いっつもユズがオマエの面倒みなきゃなんなくなって、オレたちと遊べなくなるんじゃんかっ!」
いつも約束を破るオレを笑ってゆるしてくれてた真也。でも本当はやっぱり我慢してくれてたんだ。
ごめん真也オレ気付けなくって…。
「ユズだってイチゴがいなきゃ、もっと楽出来るのにさっ!兄弟だってせいでとんだ貧乏クジだよなっ」
うなだれてたオレだったけど、聞こえてきた真也の言葉に顔を上げた。それは違う!オレは苺のことをそんな風に思ったことは、一度だってない。
苺をせめる真也に、そうじゃないと言おうと二人の前に出ようとした。だけど、苺の声がオレを踏みとどまらせる。
「取り消してよシンヤくん!」
「…っ?なんだよっ」
「たしかにボクの身体が弱いせいで、ユズに迷惑かけてるのは本当だし、シンヤくんたちと遊べなくなるのも申し訳ないっていつも思ってるよ…。
だから、ごめんなさい。
…でもっ!ユズはボクの面倒を見るのを貧乏クジだなんて、思ったりしてない。
ユズはこんな弱虫な身体のボクを、大事に思ってくれる優しいお兄ちゃんだ」
いつもオレの後ろにいる穏やかな姿からは想像もつかないほど、凛とした態度で苺は真也に向き合ってる。
「親友のシンヤくんならユズの優しさを一番分かってるでしょう?そんな風にユズのことを侮辱するのはやめてよ」
…オレはアニキだから、苺を守るのは当たり前だと思ってた。
「…っ!なんだよっオレは本当のことを言ってるだけだ。イチゴばっかり大事にするユズが悪いんだっ!」
だけど、守られてる苺の気持ちはちっとも考えてなかった。
「ユズはシンヤくんのことをちゃんと大事な親友だって思ってるよ。シンヤくんもユズのことが好きなら、ユズの気持ちを信じてあげてよっ」
いつも大人しい苺が、こんなに必死に真也に食い下がってる。
オレのために……。
「うるさいっ!自分だけが分かってるみたいに、偉そうに言うなっ!」
どんっ!
そう叫んだ真也が、苺の体を思い切り押した。その勢いで苺は地面に倒れこむ。
「っ、イチゴ…!」
倒れこんだ拍子で出来た手足の擦り傷からは、血が滲んでる。ガマン出来ずに飛び出そうとするが、苺の声が再び踏みとどまらせた。
「お願い。ユズを信じてあげて!」
地面に倒れこんだまま苺は真也を見つめて、そう繰り返している。
「…イチゴ」
…オレが守ってあげなきゃって、思っていた弟はこんなに強い。
そうだ、オレは間違っていた。
苺の身体を気遣うのと、苺を甘やかすのは違う。苺はちゃんと自分の力で頑張れる強いやつだって、オレは知っていたのに。
オレが間違えてたせいで、苺にも真也にも悲しい思いをさせてしまったんだ。
「シンヤ」
オレが声をかけると真也はびくっ、と肩を震わせた。
「ユッ、ユズ…っ」
振り返ってオレを見た真也は、いまにも泣きだしそうな顔をしていた。
「おっ、オレは謝らないからなっ!ユズが悪いんだっ、約束したのに…それを破ったユズのせいだっ!イチゴだって、しつこく言うから…だから…」
真也の声は怒ってるけど、泣いてるみたいに聞こえた。握り締めた両手はぶるぶると震えてる。
「…うん、オレが悪いんだ。シンヤ、ごめんな」
倒れてる苺の前に立ち、真也と真っすぐに向かい合う。そしてオレは、思いっきり頭を下げた。
「シンヤっ!いつも約束破ってごめん!オマエに甘えて、我慢してくれてる事に気付かなくてごめん!!」
それから真也の顔を見つめて、思っていることをぶつけた。
「さっきも酷いこと言って傷つけてごめん…!シンヤはオレの大事な親友だ。シンヤと遊べなくなるなんて絶対嫌だ」
オレの言葉に、真也は泣くのをガマンしてるみたいな顔になった。きっとオレの顔も、おんなしようになってる。
「…だから、仲直りしてください!」
そう言って、オレはもう一度頭を下げた。
だけど真也からの返事はなくて、そっと頭を上げると真也は顔をグシャグシャにして泣いてた。
「…オレも、ごめん…ユズ、オレも酷いこと言った。…本当は、ユズがイチゴのことばっかり構うのを、イヤだって思ってたの内緒にしてた…」
「うん…、ごめんなシンヤ…。オレもシンヤならわかってくれるって勝手に決めつけて、シンヤの気持ちをちゃんと考えてなかった」
親友だから弟だから、きっとアイツはこうだって決めつけて、オレは相手の気持ちになって考えることしなかった。
約束を破られた真也の気持ち、自分のせいで約束を破らせてる苺の気持ち。
その人の気持ちになって考えるってことをちゃんとしてたら、こんな風に喧嘩してしまうことはなかったかも知れないのに…。
それからオレたちは無事、親友に戻って真也は苺に謝った。
「…ごめんなイチゴ。ケガまでさせちまった」
「ううん。ユズとシンヤくんが仲直りしてくれたから、これは名誉の負傷だよ」
そう言って、苺はニッコリと笑った。
「オレ、ちょっとイチゴのこと見直した。いっつもユズの後ろに隠れて、女子とばっかり遊んでる情けないヤツだって思ってたけど、イチゴって男らしいとこあるんだな」
「そうだよ!イチゴはオレの自慢の弟なんだからな」
オレと真也に褒められて苺は照れくさそうに、でもスゴく嬉しそうに笑う。苺が教えてくれなかったら、オレは大事な親友を失くしてたかも知れない。
「…ありがとな、イチゴ」
オレはたくさんの意味を込めて、苺にお礼を言う。苺は優しい目でオレを見て、また笑った。
「ユズーっ!ドッジボールやって帰ろぜ」
「おう!わかった先に行って場所取っといてくれ」
放課後いつもどおりに、グラウンドに向かうみんなを見送って、真也のとこに行く。
「シンヤ!オレ一回家に帰ってまた来るから、しばらくみんなのこと頼むなっ」
「おう、まかせとけ!ユズの出番がないくらい、2組をヤツらをやっつけといてやるよ」
苺は今日、久しぶりに熱が出たせいで休み。だから給食のプリンを届けて様子を見てから、学校に戻ってドッジボールをすることにした。
「ユズ、これイチゴに持ってってくれ」
「え?これ…」
真也の手には給食のプリン。
「…おっ、お見舞いだ!早く良くならないと、一緒に遊べなくてつまんないからなっ!」
真也も大好物なのに食べなかったんだ。
あれから苺は、体調がいい日は男子とも遊ぶようになった。あんまり激しい遊びは出来ないけど、オレと真也で気をつけてやりながら、苺も無理はせずに遊んでる。
クラスの男子も少しずつ苺を受け入れてくれて、苺も前よりちょっと男らしくなった気がする。可愛い苺が好きなクラスの女子はそれが少し不満みたいだけど、苺が元気になったのは嬉しいみたいだ。
来年になったら3人で、スイミングスクールに通おうかって話してる。水泳はゆっくり身体を鍛えるのにいいらしいから。
そうして少しずつ苺の身体が強くなって、思いきり遊べるようにきっとなる。
オレと苺は双子だけど、正反対でちっとも似てない。
だけど苺は大事な弟で、大切な親友。
そして、頼れる相棒なんだ――。
end
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