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君という光5
思いがけないタイミングで予想外の人から彼の情報を得て、薫は激しく動揺していた。
「その顔だと、本当に何も聞いてないんだな、おまえ」
牧先輩はそう呟くと、ため息をついた。
薫は身を乗り出して
「樹は……何を言ってたんです?あいつは」
牧先輩はす…っと目を逸らし、スツールから降りた。そのまま無言でカウンターの向こうに戻って行く。
「先輩」
「まあ落ち着け。珈琲でもいれるよ」
くるりと背を向けた牧の背中を、薫は呆然と見つめた。
……落ち着け。先輩の言う通りだ。落ち着け。
薫は俯いて、ぎゅっと目を瞑る。
狼狽えてしまった自分がショックだった。7年もかけて封じ込めたはずの記憶は、こんなにも呆気なく鮮明に蘇ってしまうのか。
指の先が冷たくなる。ダメだ。頼むから消えてくれ。
薫はガバッと顔をあげ、急いでスツールから降りた。
「先輩。ちょっと用事を思い出したので、珈琲はまた今度で」
呻くようにそう言って、背を向けドアに向かおうとした。
「待てよ、薫。逃げるのか?」
牧の穏やかな声が後ろから追いかけてくる。
薫はドアに手を伸ばしかけたまま、ピタリと足を止めた。
「逃げずに聞けよ。おまえは知っておくべきだ。あの子が今まで、何処でどうしていたのか。今どこにいるのかをな」
穏やかに諭されて、薫は両の拳を握り締めた。グラグラする。立っていられなくなりそうだ。
「今さら……知ってどうするんです。俺はもう」
絞り出すように言いかけて、言葉が続かない。
「とにかく座れよ。そっちの椅子でいい」
唇を噛み締めたままぎこちなく振り返ると、牧は痛ましげに自分を見ていた。
本当は知りたい。樹が今までどうしていたのか。元気だったのか。今どこで、どんな風に生きているのか。
父や義母とはもう何年も連絡を取っていない。籍はあっても絶縁状態に近い。
あの頃、必死になって調べた情報では、叔父はあの家を売って大学も辞め、海外に行ったとしか分からなかった。父や義母にどれほど問い詰めても、樹のことは分からないの一点張りで、月城という男の消息も掴めなかった。
唯一、樹と繋がっていた携帯電話は「現在は使われておりません」と無機質に告げるだけだ。
樹は消えてしまった。
どんなに嘆いても、後悔しても、全ては遅かったのだ。
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