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闇底に沈む光に7
店のカウンターの一番奥に腰掛けて、ユウキはぼんやりと棚に並んだ酒瓶を眺めていた。
古くさくて洒落てもいない小さなバーだが、それなりに常連はついている。
1人、2人と客が増えてくると、宮地は馴染みの常連客とすっかり話し込んで、こちらには目も向けなくなった。
でもそれでいいのだ。
その素っ気なさこそが、ユウキがここを定宿にしている理由なのだから。
ポケットからもう一度、例の手紙を取り出してみる。
そこには、とあるマンションの名前と地図が書かれているのだ。
先日、いつものように時間を見計らって藤堂のマンションに電話をしてみたが、薫ではなく冴香が出た。
冴香はきっと警戒していたのだ。だから、今日はわざと予定より早く帰宅したのだろう。
久我のところで雇っているあの探偵はやはり使えない。せっかくサービスしてやったのにとんだ無駄遣いだ。
さて、どうするか。
薫は、この手紙を見たらきっと、書かれている場所を訪ねるはずだ。だが、もう彼のマンションには行けない。冴香が妨害してくるだろう。
……事務所の方に行ってみるか……。
彼がマンションを訪ねてくれるまで、出来れば顔は合わせたくない。事務所に郵送することも考えたが、後で足がつくような証拠を、彼の手元に残したくなかった。
……しくじったな。
冴香と顔を合わせてしまったのは失敗だった。彼女の警戒が解けるまで、しばらく時間を置いた方がいいかもしれない。
手紙を持つ指が不自然に震えるのを、ユウキは自分の手でギュッと押さえた。
本当はこれ以上、時間を置くのは嫌だった。ようやく久我の家から出られるようになったのだ。でもこのままでは、いつダメになってしまうか分からない。
「おい。何か飲むかい?」
不意に後ろから声をかけられ、ユウキはハッとして振り返る。たまに見かける常連の男だ。
「お。思ったより若いんだな。もしかしてまだ飲めないかい?」
「……20歳は過ぎてる」
「ふーん。どう見てもまだ10代にしか見えないけどな」
男は疑り深そうな目をして、こちらを上から下まで眺め回した。ユウキは苦笑した。
「童顔なんだ」
「じゃあ、何を飲む?一杯奢るぜ」
「マティーニ」
男は大袈裟に眉を上げると、宮地に酒のオーダーをした。自分とこちらの2人分だ。
宮地はじろ…っとこちらを睨んで
「その子なら先約がいる。ちょっかいは出さない方がいい」
宮地の言葉に常連客はこちらをまじまじと見つめて、首を竦めて自分の席へと戻って行った。
「おい。うちの客に手を出すなよ」
「向こうが誘ってきたんだ」
文句を言われてユウキはムッとして宮地に言い返した。宮地が尚も何か言おうとした時、カランコロンとドアベルが鳴った。
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