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光射す午後に21

「大丈夫」 肩を支えると、少し頬を強ばらせた樹がこちらをちらっと見て健気に微笑んだ。 「そちらに座ろう」 月城は樹の肩をぽんぽんっと軽く叩いて、和臣の座ってる向かいの椅子に樹を連れていった。静かに腰をおろした樹が、そっと息をつく。 聞きたくないことを、これからもっと聞き出さなければならないのだ。 「じゃあ、お姉さんはあの頃から、僕を快く思っていなかったんだね」 「ま。ライバルだし。当然じゃねーの?でもさ、俺、姉貴はあのおっさんに焚きつけられるまでは、藤堂薫のこと、そんなにムキになってなかったって思ってるんだ」 「どういうこと?」 和臣はうーん…と唸って首を傾げると 「本人に確かめたわけじゃないけどさ。たしかに姉さん、あいつのこと好きだったとは思うんだ。でも、本気であいつをあんたから奪いたいって思ったのは、おっさんにプライド刺激されたせいかな?ってさ」 「……プライド」 「うん。姉さんってさ、すごい負けず嫌いだし。恋人として自分が独占してた相手を、男のあんたに取られたの、悔しかったんだと思うんだよね」 樹は何だか腑に落ちない表情で、不思議そうに首を傾げているが、月城は内心、なるほどな…と思っていた。 そういう心理は、樹のような自己犠牲心の強い性格の人間には理解できまい。 だが、恋をする気持ちというのは人によってさまざまだ。それほど夢中になっている相手ではなくとも、誰かに取られると思った途端に惜しくなったりムキになって、それを恋心だと勘違いしてしまうことはあるだろう。 かつて、月城自身がそうだった。 樹に対してモヤモヤした感情を抱いていた時期もあったのだ。もはや遠い記憶になりつつあるが。 「そう……。じゃあ君のお姉さんはきっと僕を恨んでいるよね……」 「恨む?恨んでんの、むしろあんたの方なんじゃないの?」 今度は和臣の方が、不思議そうに首を傾げた。 「姉さんに、藤堂薫を奪われてさ。ショック受けてんだろ?あんた、姉さんのこと恨んでるよね?」 「恨む……僕が?君のお姉さんを……?」 樹は本気で分からないという顔をしている。 和臣は知らないのだ。樹が薫と別れた経緯を。知っていたらこんな質問はしない。 恨むどころか、薫が幸せになってくれているならいいと、樹は思っているのだ。 和臣が巻き込まれた一件がなければ、樹は薫と顔を合わせることもなく、そっとそのまま身を引くつもりでいたのだから。

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