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溢れて止まらない4
離れていく温もりを追いかけたい気持ちを押し殺し、樹は薫の腕を振りほどいた。
「気分、どう?まだクラクラしたりする?」
気まずい雰囲気に樹は目を逸らしたまま、小さな声で薫に話しかける。
薫は疲れたようにベッドに手をつき
「いや。だいぶスッキリしたよ。悪かった。心配かけて」
樹は首を横に振ると、備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して
「……お水……飲む?」
「ああ……ありがとう」
樹はペットボトルのキャップを外してストローを挿し、薫に差し出した。
「薬が抜けたら、食事出してくれるって先生が。もしお腹空いてたら、売店で何か買ってくるけど」
受け取った水を今度は落ち着いてゆっくりと飲むと、薫はストローを口から離して
「いや、大丈夫だ。腹が減ってるのか……よく分からないんだ。今、何時だ?あ……いや、今日は何日だ?」
戸惑ったような薫の問いかけに、樹は首を傾げると、ポケットから取り出した自分のスマホを薫に差し出した。
「にいさんの荷物。バッグとか。あいつらに変な物を仕掛けられてないか、調べてもらってる。でも、にいさんがあの屋敷に連れて行かれてから、まだ1日しか経ってないと、思う」
「そうか……」
薫は樹のスマホで日付と時間を確認すると、
「ありがとう。これ」
樹がスマホを受け取ると、薫は大きく深呼吸をして
「質問……してもいいか?奴らは何者なんだ?おまえと、どんな関わりがある?」
樹は緊張に頬を強ばらせた。
いよいよ本格的に、薫の質問が始まったのだ。落ち着いて焦らずよく考えて答えなければ。薫に余計なことを知られないように。
「あいつらは、僕がやっている仕事の、ライバル関係にある組織の人間。ちょっとトラブルになってて、僕をおびき寄せる為に、にいさんは巻き添えになったの。……ごめんなさい」
「仕事……?おまえの?」
「うん」
「随分と物騒なんだな。でもそうか……仕事か。おまえ、働いているんだな。そうか……」
樹はカーテンの方をチラッと見た。
月城は部屋にいないのかもしれない。
話し声を聞きつけたら、すぐにこちらに来てくれるはずだったのに。
樹は椅子を引き寄せ、ベッドから少し離れた位置に腰をおろした。
「うん。一応ね。もう、僕、子どもじゃないから」
「そうだよな。大人になったんだよな。おまえ、背が高くなった。こないだおまえを見た時は驚いたよ」
樹はちらっと薫の顔を見て、慌ててまた目を逸らすと
「アメリカに行ってから、身長が急に伸びたから」
「アメリカか……。向こうでずっと暮らしていたのか?」
「うん。日本に戻ってきたのは2年前だけど、仕事の都合でしばらく行ったり来たりしてた」
薫の質問に、当たり障りないように慎重に答えていく。
「こないだ一緒にいた女性は、恋人か?」
樹はドキンっとして、思わず薫の顔を見つめてしまった。
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