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溢れて止まらない8
「ええ。彼は今、自力では生活出来ない状態なので」
薫は息をのみ、身を乗り出した。
「どういうことだ?叔父さんは、病気なのか?」
月城はすぐには答えず、こちらを見て
「樹くん。俺が話してしまっても、構わないかな?」
「……うん。お願いします」
叔父のことに関しては特に、自分では月城のように感情を抑えて淡々と説明することは難しい。
月城は頷いて
「彼は今、療養施設にいます。病気ではなく事故で脳を損傷して、身体の右半分と両足が麻痺しているんです」
「……っ。交通事故か?」
「いえ。事故というか……事件に巻き込まれて。アメリカで彼は、ある組織から命を狙われて、銃で撃たれたんです。なんとか一命は取り留めましたが、頭を撃たれて。身体の麻痺だけでなく思考能力もほとんどありません。呼び掛けには答えられますが小さな子ども程度の能力です」
薫は愕然として
「……どうして……そんなことに……」
「あの人は欲張りすぎたんです。手を出してはいけない領域に自分から首を突っ込んでしまった。天罰が下ったのだと、俺は思ってます。身内の貴方に言うことではありませんが」
月城が叔父のことをそんな風に評するのは初めて聞いた。樹は心配になって、月城の表情をそっと窺う。
薫は黙り込み、すっかり考え込んでしまった。月城は壁際にある予備のパイプ椅子を持ってきて、樹の隣に腰をおろす。
「……月城さん」
「ああ。……大丈夫だよ」
月城は静かに微笑んだ。
この人が、叔父のことを好きだったことは、アメリカにいる時に教えてもらった。
あの叔父を好きだなんてすごく意外だったしショックだったが、人を好きになる気持ちは理屈ではないのだ。
叔父に対しては正直言って、憎む気持ちしかない。だが、叔父が自分にしていたことを手伝わされていた時の月城の心境を思うと、複雑だった。月城もまた、あの叔父に人生を狂わされて、望まない生き方をしてきた人だったのだ。
「大丈夫ですか?薫さん。少し……休みますか?」
言葉を失っている薫に、月城が問いかける。薫は、ハッと我に返って
「あ……ああ、いや、大丈夫だ。俺は……知らなかったことが多すぎる。何を聞かされても驚いてばかりだ。父とはあれ以来、ずっと絶縁状態だったからな」
薫は力なく呟いて額を押さえた。
「薫さん。俺からも、ちょっと質問していいですか?」
「ああ……なんだ?」
「昨日、あの屋敷に連れて行かれてから、ずっと眠っていましたか?誰かに会ったりは、してませんか?」
薫は遠くを見るような目付きになって
「いや……。一度、目を覚ました時に、年配の男に話しかけられたと思うんだ。ハッキリとは覚えていないんだが……」
「その時、何か聞かされましたか?」
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