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月の光・星の光40

「お待たせしたね」 カフェエリアで飲み物を買って、テラスの椅子に座って待っていると、30分ほどして月城が1人でやってきた。 「もう、いいの?」 「うん。彼は眠ってる。あとはスタッフがやってくれるからね」 月城は少し疲れたような表情で、ドサッと椅子に腰をおろした。 月城さんから直接、聞いた方がいい。 樹はそう言って、巧については何も話してくれなかった。和臣も、さっきの光景と途切れ途切れに与えられた情報で心がパニックを起こしていて、自分から言葉を発する気にはなれなかった。 「和臣くん。ごめんね。ビックリしたよね」 和臣はグラスを掴んで、氷が溶けて薄くなったレモネードの残りを一気に煽ると、口の端に零れたのを手の甲でグイッと拭った。 「驚いた。でも、話してくれんだろ?全部」 「うん。君の症状が落ち着いたら、全て話すつもりだったんだ」 「じゃ、話してよ」 月城は視線を逸らし、少しの間何処か遠くを見るような目をしていたが、やがてふ…っと吐息を漏らし、静かに話し始めた。 「僕が巧さんに始めて会ったのは、9歳の時だ。僕はある施設にいて彼はそこの支援者の1人だった」 「……施設?」 「うん。様々な事情で親と一緒に暮らせなくなった子どもたちがいる児童養護施設」 「……そっか。月城さんって両親いねえの?」 月城は曖昧に首を傾げて 「僕は父親が誰か分からないんだ。名前も知らないし会ったこともない。母は……たぶん、何処かで生きている…とは思う。夜の仕事をしていてね。僕が最後に会ったのは8歳の時かな。トラブルを起こして店の金を盗んで男と一緒に逃げた。それ以来、行方不明なんだ」 樹はグラスのストローを指先で弄びながら、黙って月城の表情を見守っている。 和臣は唇を噛み締めた。 久我に飼われるようになってから、夜の街で生きる人たちの様々な事情を間近に見てきた。久我の配下の男たちにも、月城と同じような家庭に恵まれない境遇で、組織に入ってきた者は少なくない。 目の前にいる月城は、そういう過去も暗い影も感じさせない理知的で育ちの良さそうな男だが、外見からは窺い知ることの出来ない深い闇を抱えている人間は存在するのだ。 「支援者、ってのは……?」 「施設運営の為に寄付をしてくれたり、季節行事の時に子どもたちにプレゼントをくれたりね」 和臣は顔を顰めた。 あの男にそんな慈善の心があったなんて、信じられない。 「んじゃ、あんたにとってあの男は、足長おじさんだったわけ?」 思わず吐き捨てるように言うと、月城はちょっと弱ったように苦笑した。 「そんな、美談じゃないよ。僕がこれから話すことは」

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