25 / 33

第25話

ふと、目を覚ますとそこは保健室だった。結局Fクラスの奴らをこちらで引き取ることができなかったし、アイツの正体を知ることは叶わなかった。と、いうか俺は何故こんなにもあの黒パーカーのことが気になるのだろうか。最初は、怪しさが振り切ってる奴の正体を知らなければ、と思った。俺が知らなかっただけみたいだけれど、学園の奴らはアイツを都市伝説のようなものだ、ととらえていて、実際に助けてもらったという証言もあるらしい、なら、別にいいじゃないのか?とも思わなくないが… きっと、こんなにも気になっているのは、後ろ姿があの人と似てるから… 「…あ、会議…永束、怒ってるかな…」 「ナガツカ…?あぁ、生徒会長のことか」 「うん、そう…って!?」 てっきり一人だと思って、ぼそりと呟いた言葉に返答が帰ってくるとは思わず、ぼんやりとしていた意識を覚醒させ声の主を見る。 すると、そんな俺の一部始終を見ていたワイルドイケメンが「ククッ…」と色気たっぷりに笑っている。 「…なんで、ユキさんがいるんですか」 俺が不機嫌そうにそう言うと、ますます笑みを深めるチームvillainの総長様。 「悪かったな、薫じゃなくて」 そう言って、俺の頭に手をのせるユキさんに俺はされるがままになる。昔はよくこうして頭を撫でてもらっていたのを思い出してなんだか懐かしくなってしまった。 「…思ってないです、」 ぶくれた俺を見て、ご機嫌になったユキさんは俺の頭から手をどけると、ベッドの近くにあった椅子に腰かける。 「気持ちは嬉しいが、そういうことは言うな。薫に殺される」 そう言われ、チームで最強と呼ばれる二人が殺し合いをするところを思い浮かべて、俺は少しだけ背中が凍った。なんて恐ろしい事を言うんだ。まあ、ありえないことだとは思うが。 「それで?まだ夏休み終わってないのに学校なんて、天下の不良様がなにやってんですか」 「…ふりょ、まあ、確かにやってることは喧嘩だが、そこいらのチンピラと一緒にすんなよ」 そう言ってうなだれたユキさんを見て、あれそんなにダメージあること言ったかな、と少し反省する。 「まあ、貴方達がやってることは風紀乱すどころか正してますからね」 すみません、と言うとわかってんじゃねえか、とでも言いたいのかユキさんは鼻を鳴らした。 「まさに、正すために帰ってきたんだよ…チーム外のFの奴らが悪さしてねーかって見回りにきたんだ」 「…それは、お疲れ様です。」 この人は昔から何も変わらない。見た目は、ワイルドで俺様で、不遜で。近づくことすら恐れられる総長さまなのに、実のところ、チームで一番常識人で心配性で、優しい。 だから、きっとみんなこの人についていくんだろうな、と思う。まあ、どちらかというとこの人が振り回されている気がするけれど(主に、薫さんとか) 「…今回は、というか今回もだな、お前には迷惑を掛けたな」 きっと、先ほどの花沢の件を言っているのだろう。 「あ、いえ。別に……」 …あれ、なんでこの人は、Fクラスの人間が花沢を襲いかけたことを知っているんだ?それは、俺とあのパーカー野郎しか知らないはず…。 襲われた本人である花沢は、頭の回転の速い奴のことだから俺の焦り具合からして、なにかあったことはわかっているとは思う。けれど、犯人の断定まではできていないだろうし、きっとallyのしていることは正当な断罪ではないはずだ。きっと、アイツは表にはできないようなやり方で社会的制裁を加えているはずだ。 以前から、生徒会としても密かに調査を進めていたのだ。今まで証拠不十分で見逃してきた悪の塊どもが突然に自主退学する、という事が今年に入ってからも数回怒っているのだ。よくよく調べてみるとそれは、今年だけに限らず毎年である。 「なんで、ユキさんが…」 俺はそこまで言って質問をすることをやめた。きっと、この人は俺が「なぜ知っているのか」「allyに聞いたのか」と問い詰めたところでなにも教えてはくれないだろう。 俺が言い淀み、黙り込んだ様子を見たユキさんはにっこりと笑った。 「薫は、本当に見る目があるな」 「…?」 「ヒロ、お前の目はもうすでに答えを見つけているはずだ。お前が求める答えは、お前の手の中にある」 まっすぐな目をした真っ黒な瞳はまるで俺を見透かしているようだった。動かない俺から、ふと目を逸らして保健室から出ていくユキさんを目で追った。 …答えは俺がすでに… どんなに考えても俺には、わからない。

ともだちにシェアしよう!