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第27話

学園を抜け出してチームの溜まり場の「ally」へと向かう。バーの扉を開けるといつものように店長が「おー」と出迎えてくれる。案の定今日は人が少ないようで、ユキさんもカオルさんもいないようだった。 「アイツ、奥にいるぞ」という店長の言葉をもらい、比呂は今日ここに己を呼び出した人物らの元へと向かう。なかなか、自分に頼ろうとしない奴らからのメッセージに比呂は生徒会の仕事を速やかに終わらせて学園を抜け出した。奥の部屋に通ずる部屋の扉を開けると、そこには予想通りの顔ぶれがあった。 「…ムタ……」 声を掛ければ、不安の色に顔を染めたムタがいた。ムタは奥のソファに身を隠すように座り込んでいてこちらを見つめる顔色は最悪だった。普段クソガキ同然のコイツらがこうして顔を真っ青にしているのは出会ったとき以来だろうか。あの時と同じかあるいはそれ以上のことがコイツの身に起こっているというのだろうか。比呂は彼の隣へと腰を下ろす。すると、この大きな背中が震えていることに気付いてしまった。 「ヒロ…実は…」 閑寂な空間に落ちたその声が紡いだその内容に比呂は、爪が食い込む程に手を強く握りしめた。その掌には血がにじんでいる。 *** あー…やらかしたかもしれねえ… ある程度階の高い病室の窓からは綺麗な満月が爛々と輝いている。その眩しさとドバドバ出続けているアドレナリンのおかげで目は冴えわたっている。タツミは、昨夜起きた事案を思い出し、悔恨の念をだれに向けるでもなく内臓の中で溶かしていく。 タツミが在籍している高校は、私立春浪(ハルナミ)学園という全寮制男子高校である。比呂たちの在籍する学園と同じように金持ちが集まるのだが、少しばかり素行が悪く血気盛んなのが春浪学園の特徴である。今年入学したタツミたちは容姿が整っていることも相まって最初から注目の的であった。入学直後に起きた喧嘩は数知れず。中には性的に襲い掛かってくる輩もいたのだが、これらは全て順調に返り討ちにしたのである。タツミらにとっては平和な毎日も長くは続かなかった。生徒会に呼び出されたのである。 一週間前、三限が始まる頃にタツミとムタはいつものように屋上でサボタージュを決め込んでいた。すると、校内の一斉放送がかかり呼び出され渋々行った生徒会室では見たことのある面々が集まっていた。生徒会なのだからと、自分たちの現状を良くしてくれるかもしれないなんて思った自分たちを心底恨んだ。 生徒会室の奥の謎に豪華な椅子にふんぞり返った男はいかにも偉そうにこちらを視線を向け、鼻で笑う。 「コイツらが、アイツらの仲間だっつうのかよ。蒼乃」 「えぇ、確かな情報です」 会長らしき男のデスクの前に座るすこし長めの髪を一つに結んだ「蒼乃」と呼ばれた男が固い口調で答える。 「ほう?」 こちらを見定めるような眼差しに早くもムタが戦闘態勢に入っているのを隣にいてわかる。相手の目的がわからない以上がこちらとしては早く帰りたい。ひなたぼっこがしたい。まだメロンパンも食ってねえのに。 「それで?アンタらはなんで呼んだんスか、俺らそんな暇じゃないんスけど」 早くもキレそうになる自分を押さえつけそういうと、かわいらしい見た目の男が「さっきまで屋上でゴロゴロしてくたせに」とぼそり、と言った。あー本当、俺よくキレてないわ…これキレていいよな?いいよな?な?ムタなんか人相変わってるし。ヒロには見せないけど、コイツが一番キレやすくて問題児なんだよなあ…コイツの隣にいると大体俺がストッパーになるから、少しばかり成長したな、とヒロに褒めてもらいたい。 「お前、ここにvillainのヒロとかいうやつを連れてこい。」 横にいた気配が動いたのに気付いた。 ゴキッ ああ、嫌な音がしたなあ…口の中にじわり、と鉄の味が広がる。 「ムタ、やめろ」俺がそう言ってムタを下がれせる。すると、周りにいた役員どもは少し面食らったようだった。早くここあら出ないと、死人がでそうだ。 「なあ、アンタら、その人に手ェださない方がいいぜ? …じゃねえと、俺が手ェ出しちまうからよ」 「…とんだ狂犬を従えているようだな、アイツは。」 「……いくぞ、ムタ。」 いくつもの視線を背中に感じつつも、俺達は生徒会室から出る。 「…謝らねぇぞ」小さいが低くドスの効いた声でそう言ったのは隣にいる無駄に長身の男。コイツ、ヒロの前では猫被って「やだやだ」言う癖に、いなくなった瞬間、この口の悪さだ。 「ったく、まあいいぜ。おかげで殴らずに済んだ。」 ムタに殴られたおかげで、なんとか俺もその衝動に駆られることなく済んだようだ。めちゃくちゃいてえがな。 そうしてしばらくなにもあちらからのコンタクトもなく、ムタもなにも言ってこないためにあの出来事はもう終わったものだと思っていた矢先…昨夜、チームの溜まり場に向かう道中、後ろから襲われ臨戦態勢に入ったものの、相手は10人近く居て携帯もバッテリー切れ助けを呼ぶにも夜道に通りがかる人もいなかった。 結局ボロボロになりながらも、やつらも追っ払ったものの病院送り、というわけだがもしかしたらあの生徒会の奴らが寄越したのかもしれない、と思うと気が滅入る。これではヒロが危ないのではないか。そう思っても、情けなくて連絡しようにも連絡できずに一日経ってしまった。 俺が溜息をついて、寝返りを打つとどこからか風が吹く。窓は閉めていたはずなので風が吹くのはおかしいと、窓の方を向くとカーテンがはためいている。そして月光に照らされてシルエットのみが浮かび上がる。 「よ、タツミ。」 本当にお前は俺らのヒーローだよ、ヒロ。

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