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雪国の海賊③
暫くして、布団に包まれた僕を抱えたまま、彼は外に出た。上半身裸で寒くないのだろうか?
甲板に出ると粉雪が激しく舞っていた。誰かに聞いたことがある、この雪の結晶一つ一つは皆違う姿をしているって。こんなに小さいのに個性があるんだ。
「キャプテンの魔石狙いじゃないっすかね?この船に一個しかない貴重な物っすから」
舵の前には少し茶色味がかった豹の獣人が居た。雪豹の彼が近付くと、男は首に掛かっていた小さな白い石の付いたペンダントを外して彼に手渡した。
「そうかもしれねえな。────そんでお前、さっきのはなんだ?」
キャプテンと呼ばれるこの男の顔が見られない。
「……」
「んだよ。名前は?俺はアキークだ」
「……」
「名前だよ、名前!名前くらいあるだろう?」
「……ナキ……です」
「俺はシャラールっす」
「大きい船なのに二人だけなんですか?」
また悪いことが起こるかもしれないから能力があることを知られたくない。そう思って話題を変えた。
「まあな、俺たちは魔石が扱えるから、そんなに人員が必要ないんだよ」
「見習いなんすけどね、一応って感じっす」
「そうなんですね」
どうしよう、会話が終わってしまった。どうしよう、どうしよう、どうしよう……。
「…………っ」
僕はどうして涙なんて流しているのだろうか。
「あーあ、キャプテンが泣かしたー」
「うるせえぞ!ど、どうした?」
オドオドしながらアキークは僕を抱えたまま部屋に戻って行く。暖かい空気に包まれ、少しだけホッとしたけれど涙は止まらなかった。
布団ごと僕をベッドに降ろし、目の前の床にアキークが片膝を着いた。視線を合わせてくれようとしているみたいだけど、今の僕には上手くアキークの顔が見られない。涙に邪魔をされている。
「さっきのが怖かったのか?この海は海面がほとんど分厚い氷に覆われてて本来なら魔石の力で溶かしながら進むんだが、時間がなかったから船の底に魔石の力をコーティングして氷を削ったんだ。その音が怖かったんじゃねえか?」
僕は黙って首を横に振った。
「この船、モタカーメル号というんだが速いだろう?他の船は鉄製だからな、木製のこの船は他のより速く進めるんだ。急旋回したのはな、勢いよく進んでるときに急に片方の錨を下ろすと、それに引っ張られるように船体が回るからであって……なあ、どうしたってんだ?」
アキークを困らせている。でも、どうしたら良いか分からない。この人は優しいだろうか?
「……次の港か……どこかで……っ、降ろして、ください……」
「どこかに行くのか?」
「……はい」
分からない、どこに行けば良いのか分からない。不安で、怖くて、今にも心が崩れそうになる。
「なら、話を聞かせてくれよ。どうせ居なくなるんだろう?お前は何を隠してる?このままじゃ気になって夜眠れる気がしねえんだよ」
「でも……」
「頼むから」
眠る前のお話をせがむ子供みたいに言うけれど、僕の右手を優しく取る様は王子様みたいだと思った。彼は海賊 なのに。
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