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極光の夜に③

「どうした?また何か見えたのか?」 「大きな氷の塊を避けきれずに小さな船が沈没するのを見ました。誰かがボートに乗って漂流してきます」 「避難用の鉄製ボートか……、そんなんじゃ海面の氷を削って進んでいるうちに沈没しちまう。仕方ねえな、助けてやるか」 「アキーク!?」  持ち上げていた僕を下ろして、あろうことかアキークは見張台から甲板に飛び降りた。僕が驚いて下を覗くと彼が何もなかったかのように船首に走って行くのが見えた。 「大丈夫か?今、縄梯子を下ろす!しっかり掴まれよ?」  暫くして、誰かに話しかけるアキークの声が聞こえてきた。僕が縄梯子の真ん中くらいにいる時だ。どうやら避難用のボートはこの船の進行方向右側に浮いているらしい。 「キャプテン!どうしたんすか?」  アキークの声に気付いてシャラールさんが甲板に出てきた。 「シャラール!手を貸せ!」 「うっす!」  僕が甲板に降りた頃、二人は既に漂流者をボートから引き上げていた。 「助けてくださり、ありがとうございます。私、行商人をしておりますカムサーと申します」  茶色の豹、彼はアルカマルの獣人だろうか。 「俺はこの船の船長、アキークだ」 「シャラールっす」     僕がアキークの隣に立ったのはお互いの自己紹介が済んでしまった後で、僕はタイミングを逃してしまった。 「そちらは人間の方?」  アキークの陰に隠れてオドオドしている僕を見て、カムサーさんはこちらを覗き込んできた。 「ナキだ。こいつのお陰でお前は助かったんだぞ?」 「そうでしたか、ナキ様、ありがとうございます」 「い、いえ」  こんな風にちゃんと面と向かってお礼を言われたのは、いつ振りだろうか。もしかしたら初めてかもしれない。様なんて付けて呼ばれたこともないし。 「本来ならば、ここで良い品物を紹介したいところなのですが、ほとんど海に沈んでしまいまして」  落胆したようにカムサーさんは深い溜息を吐いた。 「それは残念だったな。まあ、ここから一番近い港に送り届けてやる。港に着けば陸続きだから何処でも行けるだろう?」 「いやはや、そこまでして頂けるとは、ありがとうございます」 「シャラール、部屋に案内してやってくれ」 「うっす!キャプテン!」  大きな船だから部屋はたくさん空いているようだ。ただし、暖炉は無い。でも、後でこっそり僕がカムサーさんの部屋を訪ねると、そこには暖炉があった。どうやら、魔石で作ってあげたようだ。アキークはシャラールさんをいじめて楽しんでるのかも、可哀想に。 「あの、カムサーさん僕もお供して良いですか?」  カムサーさんの部屋にお邪魔して、僕は彼に尋ねた。 「お供とは、この船を降りられるんですか?」 「はい。元々、僕はここの船員ではないですから、いつかは降りないといけないんです」  先に降りるか、後に降りるか、それだけの違いだ。少しだけ早まっただけ。 「楽な旅ではないですが、よろしいんですか?」 「はい」  楽なことなんて、これまでだって一度もなかった。 「港に着き次第、出発致します。ご準備を」 「ありがとうございます」  僕はお礼を言ってカムサーさんの部屋を後にした。  ────これで良い、これで良いんだ……。

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