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第17話 ゴミの片づけ
「アサを部屋に連れて帰ってゆっくり休ませてあげてください。このゴミは、こちらで片づけておきますので」
「お前が言うと恐ろしいな」
「あなたに任せたら、殴る蹴るでは済まないでしょう。ご心配なく、アサの前には二度と現れないように対処しますよ」
「頼んだ」
未だに意識が戻らないザックの身体をずるずると引きずりショーンは部屋を出た。
「アサ、もう大丈夫だからね!ニールに甘えちゃいなね。あ、また後でビスケット食べようね。そうだ、お茶がね、あのね」
「おい、お前ももう行け」
「でもーアサがー」
「お前がいちゃアサも落ち着けないだろう」
「そんなー!もう分かったよー。アサ、また後でね。会いたくなったら僕の部屋においで!」
「早く行け」
「もー!」
ばたばたと騒がしくケンが部屋を去ると、俺はアサの肩を撫でた。
小さく上下する肩に心がきりきりと痛む。
アサに悪さをする奴がこの船にいるなんて思ってもいなかった。
ぎりっと歯を噛みしめると、胸の中でさらさらと黒い髪が揺れた。
未だに涙で濡れる真っ赤な眼でアサが俺を見つめる。
「ニール、ヘ、ヤ」
「ああ、部屋に戻るか?」
「ウ、ン…ヘヤ」
「よし、行くか」
細い脚の下に腕を入れ、力の入らない小さな身体を持ち上げると、アサは顔を俺の肩にうずめた。
「大丈夫だ」
「ウ、ン」
どうしたらアサが安心してくれるだろうかと考えながら俺は自分の部屋へと向かった。
部屋に戻り、抱きかかえたままベッドに腰を下ろすとアサの瞳が俺を見つめている。
「いい子だな」
涙に濡れた頬を撫でると漆黒の目が閉じられる。
何があったのだろうか。震えるほど怖いことが起きたのは聞かずにもわかることだ。
あの野郎め、アサに跨がりやがって。
どこまで見られたのか、触れられたのか、ぐるぐると考えただけでも胸くそ悪い。元々いけ好かない奴だ。何かにつけて俺に突っかかってくる変わった人間だった。
アサを気に入ったのか、それとも俺への嫌がらせか。
「ニー、ル。ン、ダイ、ジョー、ブ」
冷たい指先が頬に触れたことを感じ、はっと意識をアサに戻す。
「ダァメ」
手を伸ばして俺の眉間を擦るアサはぎこちない笑顔を浮かべた。
「イ、イコ」
言い聞かせるようにそうつぶやくアサを抱きしめるとふーっと息が吐き出されるのを耳元で感じた。
「ああ、いい子だな、アサ」
こちらを見つめていたアサが俺の肩に手を添えると、膝にまたがるように座り直し姿勢を正した。羽のように軽い重みが安心感を与えてくれる。
無事でよかった。
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