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「……囚人に尻触られた位で落ち込むなよな」
商店街の一角にある、小さな居酒屋。
落ち込んだ僕を見兼ねて、祐輔が飲みに連れ出してくれたのだ。
枝豆を器用に房から取り出し、口へと放り込む祐輔。
その揶揄う様な目付きに、僕の頬がカァッと真っ赤に染まる。
「……な、何で祐輔が……?!」
「横峯から聞いた。……って言いたい所だけど。
お前の尻触った張本人が、ペラペラと自慢気に喋ってきたぜ」
「……」
な、何で。よりによって祐輔に……
顔を逸らした後、チラッと祐輔の横顔を盗み見る。
と、それに気付いた祐輔が、空になった僕のグラスに麦酒を注いだ。
「まぁ、飲んで忘れろ」
「………うん」
並々と注がれたそれに口を付け、ぐぐっと一気に飲み干す。
「……お、葵くん。いい飲みっぷりだねぇ」
店主のノンさんが、カウンター越しに威勢の良い声を掛けてくる。
少し恰幅のある彼は、誰に対しても気さくに接し、笑顔と安心感を与えてくれる。
その人柄もあってか、勤務を終えた役人達もよくこの店を利用していた。
その役人は、本土から派遣されてきたβであり、本土に残る流刑島賛成派議員αの従順な犬だ。
「それにしても、意外にこの島は平和ですねぇ」
座敷で宴会を開いている役人集団の一人が、呑気な事を口走る。
その声は、容赦なく祐輔の耳にも届いた。
「………あの野郎っ、!」
勢いよく振り返り、その役人達を遠くから睨みつける。
「何が平和だ! 次から次へと犯罪者を送り込みやがって。
……クソッ。本土が平和なら、それでいいのかよ」
「……まぁまぁ」
握り拳に力を籠め、奥歯を食いしばる祐輔を、ノンさんが優しく宥める。
「ここで争ったって仕方ないよ。決めたのは、本土にいるお上だからね。……我々はそれに従うのみだ」
「んな事言ったって、ノンさん。
もし犯罪者がこのまま増え続けて、暴徒化して、看守の俺らでも止められなくなったらどうするんだよ。
この島は、あっという間に無法地帯になっちまうぜ。
……それこそ、犯罪者の島だ」
息巻く祐輔に、表情を崩さずノンさんが静かに言う。
「……ここは、本土の一般人に知られてはならない、機密の島なんだよ。
だから彼らも、ここで一生を終えなければならない……いわば犠牲者だ」
「………っ、!」
「……、」
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