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第2話

 騎士団の訓練後、この城にいくつかある井戸の一つで顔の汗を流し近くに生えている立派な大木の下で一休みするのがこの獣人の日課だ。そこにたまに現れては挑み続け未だに勝ち星がないクレエ。それでも嫌がらずにクレエの挑戦を受ける騎士はレストという名で、見た目は獣人らしく迫力があり、頬には戦場で付けられた傷が残り厳つく見えるが、その性格はとても穏やかで忠誠心に厚い。  クレエは、他の騎士団のメンバーや重臣や民には絶対に見せない、軽口をたたいて爽快に笑うレストが気に入っている。誰もが真面目な表情で背筋をピンと伸ばし、少しの隙も見せないレストの強さに憧れ、時に恐れ戦き、敬意を表する。  その実、本来のレストはクレエの首根っこを掴んでみたり、木陰でウトウトしたり、厨房から漂ってくる美味しそうな匂いに鼻をピクピクさせる、緩い空気の持ち主だ。  今日も木陰に座って休むレストの隣に腰掛け、クレエはその銀色の美しい毛並みに触れた。逞しい腕につややかな毛並みは何回触っても飽きない。レストは最初それが擽ったいらしく嫌がっていたが、今はもう諦めてクレエの好きにさせている。  不意に、レストが溜め息を吐いた。彼らしくない重たい溜め息にクレエは心配になって顔を覗いた。  クレエの視線に気付き、レストは苦笑いをする。  何か考え込んだり悩んだりする事はたまにあるけれど、それはレストが騎士団を統率しているが故の案件が殆どだ。けれど今の溜め息や苦笑いはそれとは違う気がした。 「なんかあった?」 「うーん……いや……」 「オレには話せない事なら聞かないけど……」  騎士団隊長として国の政に関わる機密を部外者に話せないのは当然だ。クレエもそれを無理に聞き出すつもりはない。隊長としての悩みならレストは一人でも答えを導き出す聡明さも持ち合わせているから余計な口出しは無用だ。

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