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14話「αの男」
「ここは……」
目が覚めると地下の駐車場にいた。
横には自分と同じように拘束された鷲。
たしか俺たち、黒スーツの連中に眠らされて――
「あ、やっとお目覚めですか」
視線の先にいたのは、俺たちを拉致した連中と同じ格好の男二人。
背の低い方がニコリと微笑み、挨拶した。
口元に弧を描いているが、目が笑っていない。
「僕が鴉島で、こっちのデカいのが藤堂。奥さん、すげぇ美人だね。僕の店に欲しいくらい」
Ω専門の違法風俗店を経営しているオーナーであり、5年前から鷲が捜査していた人物。
横にいた鷲が説明してくれた。
「キミも不運だよねぇ。βなんて小物に金魚のフンみたくくっついていたせいで、殺されちゃうんだから。ΩならΩらしく、α様の奴隷でいるのが分相応なのにさ」
「そーだ」とわざとらしく両手を叩き、鴉島が提案する。
「琴ちゃん、僕の店で働かない? キミなら大歓迎。使い古しでも一定の需要あるからさ」
「……死んでもお断りだ」
「待遇面気にしてる? 僕が所有するマンションで養うから心配いらないよ。毎日三食つけるし休日もちゃんとある。ボディメンテも受けられる。カラダが資本だからね。客に最上のもてなしをするためにベストコンディションを保ってもらわないと。仕事面も安心して。発情期のさいに相手する客は5人ってルールだから。それに部屋に監視カメラを設置してるから、いざ客にうなじを噛まれそうになっても助けるし。番になったら使い物にならないもんね。Ωとしてはこれ以上ない優遇だと――――」
「もうお前黙れ!!!」
饒舌に話す鴉島を、鷲が途中で遮った。
鷲は怒りに震えていた。
それもそのはず。こいつにとって、この手の人種は最も嫌悪しているはずだ。
「琴は道具じゃない、人だ。これ以上、俺の大事な人の悪口は許さない」
「頭の悪い鷲ちゃん。まだ自分の置かれた立場が分かっていないようだねぇ」
鴉島は企んだような表情で俺を見る。
ゴミのように見下す視線に、背筋に冷たいものが走る。
奴は俺の目の前まで来ると、ガッと髪を掴んできた。
「奥さんが僕にレイプされてるのをそこで鑑賞してなよ。大事な人が犯されている姿をその目にたっぷり焼きつけてから、殺してあげる」
鴉島はそう言って、俺の首筋にベロリと舌を這わす。
その舌が、ふいにうなじの噛み痕に触れた。
「あれ、奥さん番いんじゃん。え、藤堂の情報になかったんだけど。やば、鷲ちゃん浮気されてんじゃん、ダサッ!!!」
何が面白いのか、鴉島は一人大笑いする。
奴の下卑た笑い声が駐車場に反響し、不快な気分になった。
落ち着いた鴉島は好奇心旺盛な表情で「僕さぁ、一度番になったΩとヤッてみたかったんだよね」と呟いた。
「番じゃない奴とセックスすると、拒絶反応が起きるんでしょ? それを無理やり僕のを突っ込んだら、キミはどんな風に壊れるのかなぁ?」
喜々として言った。
まるで新しいおもちゃを与えられた子供のように。
好奇心を抑えきれないとばかりに。
この男にとって、俺は物珍しいおもちゃ同然なのだ。
勢いよくズボンと下着をズリ下される。
上半身を持ち上げると、もう目の前に鴉島の剥き出しのペニスが露になっていた。
これから自分が何されるかを察して、サーと血の気が引くのを感じた。
「アハハ! いい顔! 思いっきり良い声で啼いてよねぇ」
「いや……いやだ、いやだ……いやぁっ!!!」
「鴉島ぁ! お前、ブッ殺してやる!!!」
歓声と、悲鳴と、怒声が響き合い、それはそれはカオスな空間。
手足が使えないから、身を捩って退く。だけど拘束されているため、大した抵抗もできない。
腰をガッシリ固定されて、いよいよ奴のものが後孔に入る瞬間――――ブワッと汗が噴き出し、胃の内容物が喉へ押し上げられる感覚がして。
ギュッと身を縮めて全てを受け入れようとした。
が、横にいた鷲の予想外の発言に鴉島の動きが止まる。
「犯すなら俺にしろ!」
「――――はい? βの体なんて一ミリも興味ないし、犯すメリットもないんですけど」
「ああ、それもそーか。所詮、αはΩにしか主導権を握れないもんな。でも勘違いするなよ? Ωの支配権を握れるのは発情期のせいであって、お前の実力じゃない」
「もしかして鷲ちゃん、僕に喧嘩売ってるのかな? αに対する嫉妬は醜いなぁ」
「お前にさ、αの性質を失くしたら何が残る? 生まれ持った環境も、名誉も無かったらさ。俺とどう違うって言える?」
「よかったな、たまたまαに生まれて」と挑発を重ね、嘲笑う鷲。
鴉島の余裕な笑みが、スッと消えた。
仮面を無くしたその顔は、ひどく冷たい。
そして無表情のまま、鷲の前に行く。
「そこまで言うんなら、βのテクを拝見させてもらおうじゃないの。フェラしろ。歯を立てたらキミの奥さんを嬲って殺す」
鷲は「望むところだ」と言って、舌なめずりした。
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