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第1話

安いホテルの一室で。仄かな明かりに照らされたお前の表情を見つめる。 向こうも自分をじっと見つめている。睨めっこみたいだ。 クスッ、とお前が先に笑った。自分の勝ちかな? だけど、どうやら自分も知らぬ間に笑っていたらしい。 適当に入れたエスプレッソは不味かった。ふたりで焦って作ったせいもある。そこになにをブッ込んだのかも、深く考えたくなくて。 脱ぎ散らかしたお互いの服の上で、お前は震えるように手を伸ばしてきたけど。それが余計に痺れるような感覚を呼ぶ。 ゆっくりと抱き寄せる途中で耳を舐めてきた。ふふっ、と笑ったのは、くすぐったいせいにしたかったから。 強く抱き締められ、そいつの硬く熱い屹立の感触が太ももに当たった。 (あーぁ……こいつ、もうこんなになってるのか……自分もおんなじか?) 触覚、視覚、味覚、嗅覚、全てで相手を感じているせいだろうか。 (いやいや、単純に、さっきふたりで一気に飲んだエスプレッソのせいか) ぼんやり考える自分からそっと離れると、おそるおそるお前は口を開く。 「なぁ……俺たち、捕まっちゃうのかな?」 「捕まる……って、なんでだよ? 悪いことなんてしてないだろ」 首を傾げたお前の頬を撫でると、手の甲に手の平を重ねられて、どんどん熱くなる頬を感じる。 「だってさ……なんか、変なクスリ……使ってる、じゃん」 あぁ、そういう事か。でも自分の心配はもっと深刻だ。 「捕まる前に……死ぬかも」 そんな台詞の後に、自分からぐっと頬を掴んで深く口付けると。そいつの口の中を舌で探る。かろうじて命は助かっても、心も身体もめちゃくちゃになりそうだ。 汗だか涙だか唾液だか、よく分からない液体がそいつの顔面を濡らしている。 「……怯えて泣いてんの?」 からかうように笑うと、思いっきり押し倒された。 「いっ、て!」 顔をしかめる自分の額に、なんだか分からない雫が垂れてきた。 「泣いてなんか……ないしっ」 思いっきり口付けられて、唇に歯が当たり、また痛覚が刺激された。でもいまは、痛みも快楽に繋がる。 首すじから胸元を舐められる。こんな骨と皮だけの身体、どこがいいんだか。負けないように、そいつの逞しい胸板や、背中から尻の筋肉を探ると。そのうちに脳から思考が失われる。互いの吐息や液体の音は耳に入るが、それがなんなのかは理解出来ない。 (触られる、んじゃなく、触る、事で気持ち良くなるのか……) うっとりと酔いながら、自分の理性は最後にそんな真実を知った。

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