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第6話
連れて行かれた自警団本部では、チュニックと下ばきとズボンをもらって着替え、どうにか人心地がついた。
団長のガルダと呼ばれた大柄な男を筆頭に、自警団幹部数人に囲まれてここに来た経緯を訊かれ、仕方なくありのままを話したら碧馬は拍子抜けするくらいあっさり異世界人と認定された。
「異世界人……」
まるでラノベかゲームの世界だ。
こういう時、小説なら主人公は魔法が使えるようになっていたり、特殊能力を持っていたりするものだが、碧馬にはそんなものは備わっていないようだ。
唯一、今までと違っているのは、心話が使えるらしいことなのだが、これにしても誰にでも通じると言うわけではない。
どういうわけだか碧馬の心話はリュカにしか通じず、ここの人たちが話す言葉も碧馬には通じなかった。唯一の例外がリュカだけで、彼の言葉は心話として理解できる。
一体どうしてなのか理由はわからない。ただ一つ言えるのは、一人だけでも話が通じる人(ケンタウルスだけれど)がいてよかったということだった。
「過去にもいたらしいな」
リュカが通訳するのに碧馬は食いついた。
「そうなんですか? その人、どこにいます?」
「もう三十年以上前の話だ。亡くなっている」
「亡くなった? 帰れなかったんですか?」
「そうだな」
「帰る方法はありますか?」
必死の問いに周囲の人々は困惑した表情になる。
「ここでは誰も知らない。大きな町に行けば知っている者もいるかもしれない」
あやふやな返答に、あきらめられない碧馬はさらに問いかけた。
「誰に訊けばわかりますか?」
「そうだな。神殿の神官かあるいは魔道士、呪術師……。いずれにしても滅多なことでは会えないな」
ここは獣人たちが多く住む辺境地で人族の少ないエリアらしい。今、碧馬の周囲を囲んでいるのは狼族や羊族などらしく、人の姿の者もいれば半身が獣だったり、角や尻尾があったりとまちまちだ。
ファンタジーの世界に出てきそうな彼らのビジュアルに、碧馬はいやでもここが異世界なのだと認識させられた。
そして彼らの言う大きな町までは馬でも二十日はかかるという。最速の天馬ならここから三日で行けるというが、天馬の知り合いなどいない。そもそも馬に乗ったことなんかないし、道だってわからない。
そしてどうにかして町まで行けたとしても、何の伝手もない碧馬がそんな人に会うためにはどこでどんな手続きをすればいいか見当もつかなかった。
最大の問題は言葉だ。どうにかして会えたとしてもこちらの意思は通じないし、返事を言われても理解できない。
一体、どうしたらいいんだろう。
途方に暮れて、碧馬はぼんやり椅子に座りこんだままだ。
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