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第9話
「十七歳?」
どう見ても十三、四歳にしか見えなかったので、リュカは驚いた顔で振り向いた。
「やっぱりここでも童顔?」
女顔でかわいいかわいいとずっと言われてきたから、幼く見えるのは自覚している碧馬はそう訊ねた。
「そうだな。てっきり十三歳くらいかと思った」
「そんなに子供じゃないよ」
ちょっと拗ねた顔で言うのがまた幼くかわいく見えて、リュカは苦笑した。背中に乗せていなければぎゅっと抱きしめたくなるかわいさだ。
「そうか、発情期はまだなのか?」
次のリュカの質問に碧馬は目を丸くした。
「は、発情期?」
「ああ。まだなのか」
勝手に納得するリュカに、碧馬は戸惑いながらもごもごと口を開く。
日本で生活していて発情期なんて単語を聞くこともほとんどなかったのに、自分に向かってまだかと問いかけられるなんて想定外だ。
「えっと、その、人には発情期はないでしょ?」
そうか、リュカはケンタウルスだから発情期が来たら大人ってことなのかなと半分赤面しながら考える。
でも人間である碧馬には発情期は来ない。そう思って言ったのに、リュカには通じなかった。
「発情期がない? まだということだろう?」
「まだっていうか、人の発情期はないっていうか。……ある意味いつでも発情期?」
性交可能なことを発情期というなら人はいつでも可能だ。こういう意味で合っているのかと困惑した碧馬のあいまいな返事に、リュカはしばらく考えこんだ。
「もしかして、アオバは自分の性を知らないのか?」
性って性別? 碧馬はひょっとして女子に見えているのかと碧馬はあわてて主張した。
「俺は男だけど」
「それは知ってる。」
「?」
「お前はΩだろう?」
「おめが? って何?」
「……Ωの自覚がないのか」
「えーと、なんの話?」
リュカがこの世界には男女の性別以外にα、β、Ωの三種の性区別があり、アオバがΩ男性であることを告げるときょとんとしていた。
「それで、俺がΩだとどうなるの?」
Ω性などと言われてもまったく理解できない様子だ。
「発情期が来るとΩは抑制剤を飲まなきゃならない」
「抑制剤?」
「発情すると理性で抑えるのが難しいんだ」
「……?」
どういう意味なのか全くつかめていない顔を見て、リュカは一旦それ以上説明するのを諦めた。
一目見たときから碧馬が自分の番であることは気づいたが、碧馬にはその意識はなく、それどころか自分がΩであることすらわかっていない。
碧馬がどういう世界で育ったのか知らないが、あまり動揺させるのはよくない。見たところ、碧馬は発育が遅めのようだし発情期はもうしばらく先だろう。
この世界になじんで生活が落ち着いてからゆっくり説明すればいい。リュカはそう判断したのだった。
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