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第16話
碧馬にとっては面倒見がいい親切なお兄さん的存在だったから、その関係が壊れてしまうのはさみしい気がした。そんな迷いを読み取ったようにリュカが言う。
「アオバ、断るならはっきり言ったほうがいい。ラウリもアオバがその意味を知らないとわかっていて、ああやって人前で髪を撫でていたんだから、事情がわかったのならなるべく早く対処したほうがいい」
リュカの言うことはよくわかってそうしたほうがいいと思うが、ラウリが自分を好きだという実感もないので、なんだか自意識過剰な気がして言いにくい。
「もしかして、ラウリが好きだったのか? それなら断る必要はないが……」
碧馬のためらいを誤解したのか、リュカがそんなことを言いだして碧馬は焦った。
「そうじゃないよ。そういう意味で好きじゃないけど、ラウリは親切だからそんなふうに言ったら悪い気がして」
「アオバ、ラウリの親切は下心ありの親切だから、そこはちゃんと断った方がいい」
ガルダが強く言い切った。
そうだったのか、あれこれ話しかけてくれたり言葉を教えてくれたのは、下心ありだったのか。……だけど本当にそんな気持ちだった?
誰かとつき合った経験もない碧馬にはよくわからなかった。ましてここは異世界で獣人たちの気持ちは碧馬の常識は推し量れない。
でも好きな相手が目の前にいたら構いたくなるし、構ってもらいたくなる気持ちはわかるよな、と思った瞬間に頭に浮かんだリュカの姿に碧馬はうろたえた。
え、なんでここでリュカ?
ラウリと同じく、碧馬にとってリュカも頼りになる兄的な存在だったはずだ。だけど明らかにラウリと違う感情が湧いて、碧馬は困惑した。
「ああ、そうか。俺にも言いたかったか?」
「え、何を?」
「髪を触らないでって」
「そんなの、言うわけない!」
思わず強く否定してしまい、かっと顔が熱くなった。リュカの気持ちは何となくわかっている。はっきり好きだと言葉にされたことはないが、リュカの態度はいつも恋愛の熱量が伝わってくるものだったから。
でも気持ちを告げられたことも返事を求められたこともなかったから、何も起こらないと思っていた。
「そうか。それならよかった」
リュカはそれ以上何かいう事もなく、手を伸ばしてそっと碧馬を抱き寄せた。ハグなら何度もされているのに、今さらながら心臓がバクバクと大きく鳴った。
「混乱させたのなら悪かった。ただ心配しているだけなんだ」
耳元で囁くように言うから、ますます頬がカッカと熱い。ガルダがほほえましそうな笑みを浮かべていて余計に居たたまれない。
「ちゃんと言えるから、心配しなくても大丈夫!」
碧馬はそう叫んで、逃げるように執務室を飛び出した。
その夜、ベッドの中で碧馬は考え込んでいた。
碧馬には兄がいる。二つ上の兄とは結構仲がよかった。よく一緒にゲームをしたりマンガを貸し借りしたり、もちろん言い争いも取っ組み合いのケンカもした。
……もう会えないのかな。
寂しくなる前にあわてて思考を閉じる。元いた世界のことや家族のことはなるべく考えないようにしている。思い出せば切なくて悲しくなるだけだからだ。
それより、今日の話だ。
ラウリにはなるべく早く、次に髪を撫でられそうになったらはっきり言おう。
今まで知らなかったけど、みんなを誤解させるみたいだから撫でないで、そういう言い方なら平気かな。
でも同じことをリュカには言いたくない。
二人とも兄みたいだと思っていたのに、何が違うんだろう。
そんなことを考えているうちに眠りに落ちた。
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