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第22話

 湯を使ってさっぱりしたところで食事を出された。  初めてのセックスでぐったりした碧馬は、シャワーも着替えもリュカに手伝ってもらわないと無理だった。腰が重だるくてとても一人で立ち上がれなかったのだ。 「初めてなのに無理をさせて悪かったな」 「……ううん」  リュカがとても幸せそうに甘く微笑むので、さっきから碧馬は顔が上げられずにいる。  テーブルの上にはリュカが作った肉と野菜の煮込みとパン。リュカはかいがいしく碧馬の口元までスプーンを運んでくれる。  恥ずかしくて手を伸ばそうとしても、リュカは楽しげに微笑んでいるだけだ。  仕方なく口を開く。甘やかされて嬉しいけれどやはり恥ずかしい。もぐもぐと口を動かしているとリュカが話し始めた。 「アオバは俺の番だ。森で最初に会ったときに分かっていたけど、アオバは何も知らなかったから言いだせなかった」 「リュカが俺の番? どうして最初に会ったときに分かったの?」 「ここにタトゥがあるだろう?」  右肩を指して言う。  そこには馬のタトゥが浮かび上がっている。 「これは番に出会ったときにだけ出る。俺はアオバに会うまで、自分のタトゥを見たことがなかった」 「ええ? そうだったんだ」  確かに初めてその背に乗せてもらった時に、きれいなタトゥだと思ったことを覚えていた。  それが自分と会ったせいだなんて全く知らなくて驚く。 「それにとても甘い香りがするだろう?」 「それは俺じゃないよ、リュカだよ」 「いや、番はお互いの香りをいい香りだと感じるんだ」 「そうなの? 今日はいつもよりずっと強いけど」 「発情期だからな。碧馬に反応しているから」  そう言われると恥ずかしい。  こんな甘い香りを振りまいていると外を歩けなくなりそうだ。  いや、そもそも碧馬はΩだから発情期は外を歩いたりしちゃいけないんだっけ。不用意に出歩けば犯されることになるとさすがに碧馬も理解していた。 「番同士以外は発情期でもかすかに感じる程度だから平気だ」 「そうなの?」  こんなに部屋中たちこめている香りが他人にはわからないなんて不思議だった。 「と言ってもαにはわかるし、嗅覚の鋭い熊族とかも。だから気を付けないといけない」  森の中でしょっぱなに熊族に襲われかけたことを思い出す。それに今日のことも。あの男たちはαで、碧馬の発情した匂いに引き寄せられたのだ。  本当にリュカが来てくれなかったら今頃どうなっていただろう? それを想像すると恐怖で体がこわばる。  リュカが怖いことを思い出したのを忘れさせるようなキスをしてきた。息もできないくらい深く深く口づけて、唇を離すと真摯な表情になった。 「次はここを噛んでもいいか?」  首筋をやさしく撫でながら、リュカが問いかけた。  湯を浴びるときに外したので、首には何も着けていない。  それが番としての求婚の言葉だと、碧馬もすでに知っている。 「うん、いいよ」 「本当に?」  いいよと言ったのに、リュカはちょっと驚いた顔になる。 「俺もリュカが好きだよ」 「俺と結婚してくれるのか?」 「……うん」  自分が男からプロポーズを受けるとは想像したこともなかったが、そうはっきり言われて嬉しかった。 「ここで俺と一緒に暮らしてくれるか?」 「うん」 「ずっと?」 「うん」 「日本には戻れなくても?」 「うん」  答えた途端に強く抱きしめられて、本当に訊きたかったのは最後の質問だったのだとわかった。ここで暮らすうちに、なんとなくわかっていたことだった。たぶんもう、元いた世界には帰れない。  戻らないと口にするのは勇気がいることだったけれど、リュカがいてくれるならここで頑張ろうという気力も湧いてくる。  リュカを好きになっても相手はケンタウルスだから思いが叶うことはないと思っていたのに、リュカも自分を好きだと言ってくれて、こうして抱き合うことができるなんて夢にも思っていなかった。 「ここにいるよ、リュカの側に俺もいたい」 「……よかった」  心から安堵した顔で、リュカは碧馬に口づけた。

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