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第5話 一方通行な想い

「な、なんで、そんな顔するんだよ」 「…どんな顔してる?」 「辛そうな顔」 そっと賢司の頬に指先を当てる。 すると、賢司は表情を和らげて、優しく俺の手を握った。 「そんな可愛いことをしたら、煽られてるって勘違いするぞ」 「っ、は、はぁ? 煽ってないし!」 指先に、ちゅ、と口付けられ、顔に熱が集まる。こんな恥ずかしいことを平気で出来る奴だったなんて知らなかった。 「なぁ、晴翔」 「な、なに」 「晴翔は俺のこと好きにならなくていい」 「…え… 」 突然告げられた言葉は、意外なものだった。 好きにならなくていいって、番になったのに? 愛のない番なんて最悪じゃないか。 「強引に番にするような奴、好きになるわけがないことくらい…俺も分かってる。それでも晴翔のことが欲しかった。繋ぎ止めたかった。憎まれても恨まれても、どうしても手に入れたかった」 「い、今まで、そんなこと1度も言ったことなかっただろ」 「ああ。今までは、晴翔が何回恋をしても、上手くいったことがなかったから」 「う…うるせっ、悪かったな!」 「でも今回は違う。『先輩』っていう奴も、晴翔のことが好きらしいし」 「まだ好きかどうかは、聞いてない、けど」 「でも"運命"なんて持ち出してきてる」 両頬を賢司の手が覆い、上を向かされる。 すると、ぽた、と頬に熱い雫が落ちてきた。 「晴翔が…俺から離れていくのは、嫌だ」 何度も何度も、瞳がこぼれてしまいそうなくらい、溢れて、落ちる。 そして、ぎゅう、と抱きしめられた。 突然のことに頭が回らなくて、とっさに抱きしめ返し、ゆっくりと宥めるように背中を撫でてやると、さらに強い力で抱きしめられた。 「晴翔…晴翔、はると…」 「何…?」 「俺のそばにいて」 「…いるだろ」 「この先もずっと、だ」 「…。」 返答に困って言い淀むと、賢司はまた顔を寄せてきて、壊れ物にでも触れるかのように口付けた。 舌でゆっくりと唇を辿り、何か言いたげにこちらを見つめてくる。その熱のこもった視線に背筋が震えた。 「…、ん…、んっ…ぁ……けん、じ…」 「ん…」 小さく賢司を呼ぶと、舌がゆっくりと口内に侵入してきた。目を閉じ、好きなようにさせていると、後頭部を支えられ、より深くまで口付けられた。 絡めたり、吸われたり、柔く噛まれたり、とにかく賢司のキスに翻弄されてしまう。次第に頭がぼうっとしてきて、力が抜ける。 賢司が顔を離すと、銀糸が間を伝った。 こく、と自分と賢司の唾液が混ざったものを飲み込む。不思議と甘い気がしたのは、番になったから、だろうか。 ぼんやりと賢司を見つめると、賢司は穏やかな顔で頬に軽く口付けた。 いつもの表情、だ。 「今日は…もう遅いし、泊まっていけよ」 「え、あ…でも、着替えないし」 「俺のを貸せばいいだろ?」 「…泊まるのとか、悪い、よ」 「前はそんなこと言ったことなかった癖に」 「それは…その、」 「晴翔が嫌なら、セックスは我慢する」 「セッ…?!」 「それが不安なんだろ?」 「そ、れは」 「なぁ、泊まっていけよ、晴翔」 にこりと微笑まれ、何も言えなくなる。 拒否しないといけないのに、出来ない。 賢司の悲しい顔を見たくない。 そんなことを考えていた俺は、「…分かった」と自然に口にしていた。

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