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幕間 【俺しか入れないダンジョンで安全圏からダンジョンマスターします】 (1)
俺は清水慶介、二十二歳。
ダンジョンを作り、やってくる勇者をハメて遊ぶだけのシンプルかつ奥深いゲームにハマっている大学生だった。
ゲーム携帯機で遊べるそれは外出先でも自由にプレイでき、wifiを繋げば他のプレイヤーにダンジョンを攻略してもらうことも可能。
もともと部屋や建物のデザインをするのが好きな俺はすぐにのめりこみ、結構やり込んだものだ。
やり込んだ、といっても、オンライン戦ランカーにはとうてい及ばない。
自分は主に見た目と機能性にこだわるクチで、難易度の高いダンジョンを作ってはこなかったのである。
移動のしやすさを重視するなら得意だが、移動のしにくさや進入阻害に働くトラップを仕掛けるのはなんとなく気が乗らず、結果「ダンジョン作りっていうか町作りじゃん」と揶揄されるような迷宮ばかりを作っていた。
いいんだよ、NPCの方の勇者は基本アホで、すぐ落ちるすぐ潰れるすぐ迷うのポンコツ勇者なんだから。
俺は作りたい城を作っているだけだ。
両親はどちらかというとエリート志向で、母からはゲームばかりしていると怒鳴りかかられていた。
一方、貰うバレンタインのチョコ数は多ければ多いほど機嫌の良くなる母だったため、俺は次第に女の子たちの家を渡り歩いてゲームをするようになった。
まあ、そんな俺の経緯はどうでもいいのだ。
それよりも今のこの状況だよ。
巷で噂の異世界転生だ。
しかも、知識チートとか内政チートとかざまぁ成り上がりとか、ちまちま苦労しなきゃならないタイプじゃなくて王道中の王道、チートスキルありの転生!
すごくない? 神サマが言うには「転生者が複数人存在する異世界」で、「転生者同士が争いあう」ゲームの真っ最中で、「特定条件を満たして相手に勝つとさらにチートがもらえる」ってことらしいけど、そのへんは隠れてやり過ごせばいい話だ。
俺は楽がしたい。
戦う気など毛頭無い。
なぜなら、俺に与えられたチートが完全に俺好みだったからだ。
<都市建設>。
好きな場所にダンジョンコアを作成し、ダンジョンを育てるスキルである。
これだよこれ。
神サマの配慮なのか知らないが、システムまわりが完全に俺の前世でやってきたゲームと一緒なのだ。
正直、前世では就活に苦労していたのだ。
一応興味のある分野、建築関係で内定は貰っていたが、エリート志向の両親がその企業への就職を猛反対。
そこは滑り止めとしてもっと大企業の内定を取ってきなさいと煩かった。
もう誰にも止められません。
この世界で、俺は好きなことをして生きるぞ! ジ○ジ○ーッ!!
新天地に降り立った俺は、元の世界よりも若めに、中学生くらいの肉体を再構築してもらった。
そう、つまりこたびの俺には家族や故郷といったしがらみが一切ない。
てきとうな場所で拠点のダンジョンをひとつ作って、そこに引きこもりながらあちこちに好みのダンジョンを量産して、そこで得られる資源を使ってニート生活を送るのである。
いや、稼ぎがあるのだからニートではないな。
独身貴族万歳。それも違う? まあいいじゃないか。
降り立った森の木の上によじのぼり、ひとまずの安全を確保する。
枝葉に隠れて空飛ぶ魔物からは見つかりにくく、地上を移動する魔物からは攻撃が届かない。
気をつけるべきは容易に木を登れる蛇型の魔物くらいだろう。たぶん。
わりとずさんな危機管理のまま、俺はステータスメニューを開いた。
しがらみが一切ないので、こちらでの名前は自分で決めることができる。
ゲームで使っていたプレイヤー名「ヨーク」をメニューに設定し、次いでマップに移る。
似たようなスキルの転生者たちと競合させないためか、他のダンジョンの位置までマッピングされてある親切設計だ。
その中にひとつ、点滅するダンジョンがあった。
「なんだこれ?」
タップしてみると、「はじまりのエデン:スキル<都市建設>のみ入場可」と名称が表示される。
俺専用じゃん。ここでチュートリアルイベントでもあるんだろうか。
幸い、「はじまりのエデン」はこの森からほど近い場所に位置していた。
<都市建設>持ちの転生者以外入れないということは、こんな森で最初のねぐらを作るよりもきっと安全だ。
魔物から隠れながら、目的のダンジョンまで移動する。
なんのへんてつもない、真っ白、真四角の建物だ。入り口は一つだけ。
四角くぽっかりあいた、ドアすら設置されていない入り口に近付くと、システムメッセージが聞こえてきた。
システムメッセージ:
スキル<都市建設>を確認。入場を許可します。
……なるほど、単純なつくりに見せかけて、この入り口に立った人間のスキルを鑑定して結界を開け閉めしているんだろう。
これは便利だ。
中にいる魔物にもよるが、このままここに住んでしまうのもありかもしれない。
鼻歌まじりに内部を確認する。
最初に足を踏み入れた、入り口に直接繋がっているフロアは魔物など一匹も存在しなかった。
よし、ひとまずはここで寝泊りはできるな。
あとは、下の階層に魔物が居るかどうかを確認しなければ。
ゲームの通りなら階層をまたいで下から魔物が上がってきたりはしないが、いくらゲームに沿ったチートスキルを貰ったからといって、この世界自体は現実だ。
ゲームの仕様とは違う可能性だってある。
次に、マッピング機能をONにしたまま階層を少しずつ下っていくことにする。
魔物の姿がない。なさすぎる。
どころか罠のひとつもない。
「まさかここ、チュートリアルがてらこのダンジョンの内装を変えてみましょう! みたいなアレか?」
おそるおそる、マップに表示された最下層まで確認しに行った。
結局、フロアボスにも遭遇しないまま、俺は何もない「はじまりのエデン」を踏破してしまったのであった。
最下層フロアには、石版が埋め込まれている。
俺の予想していた通り、このダンジョンをスキルで書き換えて練習に使ってくれ、みたいな内容だった。
ここのダンジョンコアの所有者登録もできるらしい。
「そういうの、一層目に書いてくれよ……」
ビビって損した。
さて、せっかく魔物が存在しないこのダンジョンに、わざわざ魔物を置くつもりはない。
侵入者の認証システムが完備してある建物なんて、今の俺に作れるかどうか分からないしな。
ダンジョンコア登録時に貰える初期のダンジョンエネルギーは10000E。
魔物をひとつの層に1種類配置するだけで300E使うことになるので、まずは入り口や通路の整備や生活に必要な小物からそろえたい。
仕掛け作成、500E。
通路作成、300E。
小部屋増築、5000E。
小物作成、100E。
宝箱設置、500E。
たった15層のダンジョンではあるが、15階建てのマンションを今からリフォームしていくと考えると、どう考えても足りない。
自分が生活に使う部屋だけ優先的に整備して、他の部屋はおいおい別のダンジョンを作ったときにエネルギーを貯めてリフォームしていくことにしよう。
まず俺の居住空間として、最下層の石版を操作すると出てくる隠し部屋を作成した。
日本人が石版に触れたらパスワード入力画面が出てきて、そこにコードを入れることで部屋に続く通路が出てくるという仕組みだ。
ベッドに枕と毛布、テーブルと椅子、冷蔵庫なんかの家電製品も100Eで作れてしまったので、見た目は完全に大学生向けのワンルームと化した。
これらは電力の代わりにダンジョンの魔力で動くものらしく、スキルの解説を読む限りでは、一度設置したダンジョンから持ち出すとエネルギー供給が断たれるらしい。
つまり、この仕様を使って家電製品を売りさばくのは不可と。
うーん、もったいない。
ショップチートみたいなことができるかと思ったのに。
ダンジョンの魔力は定期的にコアに補充に行けば良い。
コア本体は、万一侵入者に壊されると困るので俺の生活空間の方に引き込んでおいた。
部屋を作るのに、合計で5800E。
水道関係は仕掛け作成で作ったのでプラス500E。
家具を作り終える頃には、残高500Eになってしまった。
これはもう、残りで宝箱を設置しろと言っているようなもんでしょうよ。
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