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幕間 【恋人の後を追ったら一緒に転生してしまったので、帰宅チートで今度こそ幸せになります】 (2)

 ――俺はひょんなことから異世界に飛ばされた。神の頼みは、俺のゲーム技術を活かした異世界攻略。  そして、代わりに神様が願い事を聞いてくれるとのことだったので死んでしまった和仁との再会を願った。  ゲームの進行度によって徐々にスキル効果や和仁の行動可能範囲が拡張されていくが、現段階では和仁は家の中に居てもらうしかない。  和仁には、このような説明をして一応の納得をしてもらった。  なんだか怒られそうな気がしたので、俺が暗殺者というジョブを選んだことや、外で日本人転生者を襲撃して回っていることなどは伏せてある。  だって、もし俺がその立場だったらめちゃくちゃ怒る。  和仁が俺を生き返らせるために他の人間をばっさばっさ切り殺していくとか、考えただけでぞっとする。  いや、俺はいいんだよ。  やりたくてやってるだけだし。  <ホーム>のスキルについては、ナビの役割を担わせると神が言っていた通り、和仁も充分に理解しているようだ。  以前は家事も分担だったが、俺が和仁の自由を得るために外に出ていることを知っている彼は、自由になるまでは自分が家事をしておいてやると言ってくれている。  俺としては、毎日恋人の手料理食べ放題なので大歓迎だ。  多数の日本人転生者を暗殺していくうちに、スキルの強化や進化について知った。  日本人転生者は多かれ少なかれ皆日本でRPGに触れたことのある人間ばかり。  RPGにしか見えない異世界に飛ばされれば、自分のスキルやステータス、仕様について考察したくなるのも当然のことだろう。  彼らの部屋に忍び込む機会も少なくない。  そうして入手した情報から、俺のスキルは特殊な進化をする<Sスキル>であることが分かった。  ……ゆるめのデスゲームとしか言えない転生者バトルなのに、俺のは戦闘向けとは思えないチートだなと感じてはいた。  だが、まさかユニーク中のユニークだったとは。  主人公っぽいじゃん。  ゲーマー魂が燃えてきた。  Sスキルは自分の対となるSスキルを持つ転生者を、「進化条件」を満たした状態で倒すと、奪って融合させることが可能。  融合させると、七つの大罪になぞらえた名前のスキルに進化する。  問題はその「進化条件」というのが、転生者ゲームで使うポイント取得の「勝利条件」とは異なるという点である。  さらにやっかいなことに、条件は伏せられているのだ。  念のため、既に進化条件を把握している転生者を殺した際に聞きだしてみたが、あてはまった様子がない。  勝利条件と同じ仕様で、「進化条件」は一人ひとり異なっているようだ。  大罪にまつわる感情が関わってくるという話を聞いたこともあるが、そもそも俺の大罪がどれにあたるのかすら分からない。  このままでは、先にスキルの進化条件を満たした転生者に遅れをとることになってしまう。  焦り始めた頃、俺のもとを一人の男が訊ねてきた。  ――Sスキルについて知りたくはないか?  情報が得られるならそれにこしたことはない。  契約のマジックアイテムで互いに転生者ゲーム戦の適用を一時休戦とし、俺は男から情報を得た。  ひとつめ。俺の対になるスキルの持ち主は、医学の町として発展しているアポセカリの医者だそうだ。  ふたつめ。俺の進化先は<アケーディア>だそうだ。  みっつめ。「Sスキル」の保持者は、スキルの「進化条件」を満たした段階でステータスの一部に文字化けが起こるらしい。  文字化けなら、異世界に来てだいぶ初期からスキル詳細ページがバグっている。  つまり俺は、知らないうちに条件を満たしていたということだ。  男は、俺の対になる――Sスキル保持者である医者の居場所まで教えてくれた。  なんでも、別の転生者と戦って満身創痍になったところを放置され、とあるダンジョンに転がされているのだという。  これは行くしかないだろ。  男が何故そんな情報を俺に渡してくれるのか、という点は気になったが、あらかじめ契約のマジックアイテムには「罠を仕掛けた場所に誘導しない」、「洗脳、催眠系のスキルを含むあらゆる魔法をお互いに向けない」などの制約を綴ってある。  少なくとも契約のマジックアイテムが有効な期間中は、俺や和仁に被害が及ぶことはないだろう。  瀕死の状態の医者は、確かに指定されたダンジョンの中にいた。  周辺に特にトラップなどもないようなので、そのままさくっと倒してステータス欄を確認する。  すると、ステータス詳細ページの文字化けが解消されていた。 スキル <怠惰> ――果てなき献身は堕落である。  なんだこれ。ってなるだろ。  俺もなんだこれだよ。  スキル詳細ページなんだから説明を書けよ。スキルの効果を書けよ。  なんかそれっぽいフレーズ並べて中二感マシマシじゃんか。  酷い、酷いわこれ、とダンジョンの中で爆笑してしまった。  無抵抗の人間をひとり殺したあとだというのに、こういう箸が転がったみたいなささいなことで笑ってしまえる自分がいる。  まあでも、俺はまだ大丈夫。  だいぶん慣れたものだ。  スキル効果が分からないなら、その場で試すのみ。  いつものように、帰宅をイメージしてみる。  すると、ダンジョンからふっと視界が切り替わり、和仁の待つ自宅に転移した。  <ホーム>のスキル仕様自体は変わってなさそうだ。  とすると、初期スキルに別の仕様が追加された、と考えるべきか。  確か医者の能力は、モノを転送するスキルだった。  とすると俺も似たようなことができるのか。  俺が転移するんじゃなくて、和仁を俺の居るところに転送してこれれば外に出れるのにな。  そう思った瞬間、ステータス欄に「転送先登録」「呼び出し」の二項目が加わった。  まさか、自宅を好きな場所に召喚できる? むしろ病院が来い的なアレの自宅版か。  震える指で、転送先登録をタップする。  座標を選択する画面が表示された。  あー。あー、これは、ますます暗殺がはかどってしまうやつだ。  つまりこういうことだろ。  座標指定を用いて遠隔操作で登録した「転送先」に、「自宅」の一部を送り込み、そこに”「帰宅」で帰る”という形でどこにでも転移し放題。  いちいち座標を覚えたり測ったり計算したりする必要はあるが、それさえできれば俺は転移スキルを得たも同然なのだ。  頑強な門も防御壁も、鍵や警戒網さえもすべてスルーして、敵の寝床に一瞬で飛べる。  そして、ことをすませればまた一瞬で遠くの「自宅」に帰ることができる。  ……暗殺者のジョブを選んでおいて正解だった。  和仁の完全復活は見えたも同然だ。  ただ、やっぱりこの座標指定転送を用いて和仁を外に連れ出すのは控えておこうと思う。  俺が外でやっていることを、彼がいつ知ってしまうか分からないのだ。  それに、この使い方で和仁を転送すると、いつか危険な場面で彼を敵陣に送り込むことになりかねない。  和仁には、和仁の居る『家』は、俺の「平穏」であってほしいんだ。 「また出かけるのか?」 「うん。まあいつものレベル上げだから気にすんな」 「……そうか。早く帰ってこい。今日はミノタウロスの肉でステーキでも焼こうと思っている」 「マジ! やった、楽しみ! 何か買ってくるもんある?」 「そうだな……アキナシを五つ。あの、この世界の辛い調味料はグレンパウダーというんだったか、あれもそろそろ切れる頃だ」 「了解。アキナシとグレンパウダーな。いってきまーす!」  大丈夫。  俺はまだ大丈夫。  俺のアケーディアは、おまえと、俺たちの家に繋がっているんだから。

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