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チートスキル持ちが勇者の息子だか孫だかに転生したら環境チートに分類されるんでしょうか(1)

「エリアス、早く行きましょ! 迷宮最下層はあたしたちが一番乗りよ!」  スレンダーな体型の少女が、同い年くらいの少年の手を引いている。  もっとも、見た目が同い年くらいといっても、実年齢はどうだか分からない。  少女の耳が長く尖っているところを見るに、人間ではない……エルフか何かの種族だろう。 「ネールさん、いい加減にしてください。そんなにくっついていてはエリアスくんも咄嗟に対応ができません」 「大丈夫よ。エリアスの探知はすっごいじゃない!」  エリアスと呼ばれた少年と暫定エルフの少女がくっついているところを、別の少女が不機嫌そうについていく。  暫定エルフ少女の名前はネールさんらしい。  そして、エリアスくんは探知能力に優れているそうだ。 「でも……」 「いいよ、ヤヨイ。このフロアにはもう魔物はいないし」  この三人がちょうどいい感じに前方を歩いてくれているので、透たちは彼らのあとをそのまま進むだけの簡単踏破だ。  詩絵里のスキルで罠を発見することすらない。  前方の三人が魔物さえも蹴散らして行くため、特にすることもない透は三人の会話から役に立つかどうか分からない情報を拾っているところである。  ここまでで聞こえてきた彼らの会話から、プロフィールをまとめるとこんな感じだ。  一人目、エリアスくん。  見た感じ十五歳くらい。  パーティーのリーダーっぽい。  ここまで魔物とは一切戦っていないが、なんだか強キャラ感がある。  メンバーの二人の女の子をこのダンジョンでレベリングしているような言動が見られる。  このダンジョンでは、探知担当?  二人目、ネールさん。  見た目は十五歳くらいだけど、実年齢は異なる可能性あり。  エリアスくんにあからさまにアプローチを仕掛けている。  魔物との戦闘を見る限り、魔法使いのようだ。  三人目、ヤヨイさん。  日本人っぽい名前だなと思ったが、見た目は完全にファンタジック。  そして言動も特に転生者のようには見えない。  詩絵里が以前見せてくれた奴隷契約の印のようなものが見え隠れしているので、ひょっとすると奴隷としてエリアスかネールが彼女を購入して、この名前を授けたのかもしれない。  戦闘時は薙刀を使っている。  ぼんやりそんなことを考えながら進んでいると、隣を歩いていた詩絵里がぼそりと呟いた。 「ここしばらく貸切ダンジョンしか回ってなかったから、他の冒険者が居るってなんだか新鮮ね……」 「ぎゃう?」  今回は僕に乗らないの? とばかりに、クロが詩絵里の腕の中から彼女の顔を覗き込む。  クロに乗って最下層まで突っ込んでもらった方が確かに早い。  だが、迷宮の通路を飛んで爆走できるサイズだと、全員を背中に乗せることが難しいのである。  ルイーザだけ乗せて先行させるのでも構わないが、このダンジョンは転生者が防衛しているダンジョンであり、さらに階層も知られているだけで100層の深さだ。  どこまでフロアボスが強くなるか分からない以上、戦力を分散させるのは得策ではない。 「いいんですよお、今回は徒歩でいきましょうねー」  詩絵里に抱き上げられているクロの頭を撫でながら、ルイーザが言い聞かせている。  彼女たちの様子を見ているとまるで小型犬を抱えている感覚だが、サイズが小さくなっただけで、体重はかなり重い。  つい先ほど「ちょっと持ってて」と言われてミニチュアクロを渡された透は、仰向けに倒れ込むはめになってしまった。  元のドラゴンの巨体からすれば軽量化されているのだろうが、それでも確実に一般的な成人男性より重いだろう。  そういえばこのパーティー、透を除く全員が怪力ステータスだったと改めて思い知らされる。  重い重いと連発してしまったが、クロがオスなのかメスなのかは、透にはよくわからない。  女の子だったらごめんね。 「なんか釈然としないんだけど」 「あら、別に踏破は早い者勝ちってわけでもないじゃない。このまま行けるとこまで楽させてもらえばいいのよ」 「うーん……」  なんとなくずるをしている気分になってしまう、勝宏の気持ちは分かる。  しかし、現状は非常にイージーモード。  効率や安全面を考慮すれば、大人しく先行の冒険者チームのあとをついていった方が無難である。 「気をつけなきゃいけないのは、むしろ最終層の踏破後やイベント終了直後ね」  詩絵里もやはり、先行しているエリアスたちのうち誰かが転生者であると予想しているようだ。  もし転生者だった場合でも、最終層の踏破まではこちらに攻撃を仕掛けてくる可能性は低い。  イベント中の転生者バトル禁止、というわけでもないが、イベント終了時間の押し迫っている最終日にわざわざ仕掛けてはこないだろう。  一瞬で仕留められる実力差なら片手間に攻撃される可能性もあるが、力の拮抗しているチート持ちの転生者。  万全の状態で戦うべきだというのは、あちらも理解できるはずだ。 「攻略が終わったからじゃあ次は転生者バトルでもしますか、なんてならないとは言い切れないわ」 「え、あいつら転生者なのか?」 「私の予想では、男の方が転生者ね。残り二人は一般の冒険者じゃないかしら」 「あのネールって人がさっきから喋ってるエリアスの探知能力、完全に転生者特典のマップ機能ですもんねー」  詩絵里とルイーザの言葉で、勝宏が「そういえば確かに……」と納得している。  マップ機能の仕様を把握していない透には分からなかったが、転生者が聞けば瞭然の能力のようだ。 「ていうか、エリアスってあれじゃないですか? 黎明の勇者に育てられた捨て子の……」  さすが商人というべきか、噂話に詳しいルイーザが追加情報を投げかけてくれた。 「黎明の勇者……ああ、聞いたことあるわね。先の大戦で活躍したチート級の実力者」 「ですです。勇者本人は転生者じゃないらしいですけど、老いた勇者の技をすべて叩きこまれた少年がいるって話聞きました。今は仲間の女の子二人を連れてあちこち旅してるそうです」  なんだその、チートになるべくしてなったみたいな環境設定。  これでエリアスが転生者だとしたら、チートスキルやチートステータスを手にした状態で転生して勇者に弟子入りして環境チートまで手に入れた転生者ということになってしまう。  戦闘になったら苦戦するんじゃないだろうか。 『不安ですの? それなら私が今のうちに、あの男、サクッと殺してさしあげてもよろしくてよ』  結構です。  透の思考を読み取って唐突に話しかけてきたセイレンに首を振ってお断りする。  戦闘になったら頼らせてもらうことになるかもしれないが、可能な限り穏便に行きたい。 「あいつ……エリアスが転生者だとして、スキルはなんだろうな?」 「うーん、よくわかんないんですよね。色んな噂が飛び交ってますけど……」 「暇つぶしに情報整理でもしてみる?」  単純にエリアスのことが気になるなら、詩絵里がスキルで確認すればいい話だ。  だが、現段階では敵対していない相手のステータスを覗いて、それを察知されてしまっては火種になりかねない。  暇つぶしとはよくいったもので、話題提供くらいがちょうどいいというのが現状である。

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