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幕間 【希望の業界への就職に失敗したのでヤドカリ女神と一緒に世界作ってきます】 (1)
就活に失敗し続けて、もう卒業間近。
無難に下請けか、営業職でもやれば? と言われても、俺が興味を持てる分野はゲーム業界だけだった。
このご時世、ゲーム会社なんてへたすると大手企業よりも倍率が高かったりする。
2月。卒業まであと1か月を切っている。
内定者の中で欠員が出たため再度募集がかかっただけの採用枠。
今回がラストチャンスなのだ。
「頼む……頼む……!」
メール通知が来ている。
お祈りメールかもしれないし、二次面接の案内かもしれない。
今の俺は、大学受験の合否発表の時よりも神を拝んでいる気がする。
震える手でマウスを操作し、メールボックスを開く。
飛び込んできた一文に、俺は眩暈がした。
「お祈りメール……」
最後の最後までお祈りメールしか来ないのか俺には。
何が駄目だったんだ。
勤務地なんてどこでもいい。
日本全国あらゆる拠点のゲーム会社を片っ端から受け続けた。
就職活動をサボっていたわけでもないし、なんなら大学三年次から就職活動をしていた。
なのに、一社も引っかからなかったのである。
「書類選考と面接一回だけでわかるほど、俺、才能……ないのか……」
お祈りメールを削除ボタンでごみ箱に放り込んで、メールボックスを閉じる。
デスクトップ画面には、この企業へのエントリーのためにギリギリまで作りこんでいたポートフォリオ――自作のゲームのexeと、使った素材が散乱していた。
プレイヤーの好みに合わせてステータス画面からスキル名称まで、UIを丸ごと改造できるRPG……今度こそ、自信作だったのにな。
exeファイルを削除する。
素材をまとめてフォルダに突っ込む。
どうせもう終わった話。
制作用のフォルダの方も削除してしまおう。
外付けのフォルダを開いて、制作用に使ったファイルをクリックする。
ひと思いにまとめて削除してしまった方がよかったのかもしれない。
だが、その時俺にはなぜか、「最後にこのゲームをプレイしよう」という気持ちになった。
いつものようにデバッグモードでゲームを立ち上げる。
コンパイルしたデータは消してしまったので、あとはもうこのおおもとのデータしか残されていない。
この世界で遊べるのは、俺だけなのだ。
480×640サイズのウィンドウが表示される。
このあと2秒ほどで、必死こいて作ったタイトルロゴが浮かび上がってくる、はずだった。
「なんだ……これ」
画面に表示されたのは、素材登録したおぼえのない女性キャラクター。
天使、というよりは女神っぽい外見だ。
そして――。
『……、……、……』
ボイスはついていないはずのゲームから、その女神キャラクターの声が聞こえてきた。
いわく。
彼女の名はアリアル。
この現実世界に存在する神や精霊の類らしい。
同種族の中には、水のあるところでなければ実体化できないものや、人間の生命力を定期的に取り込まなければならないものなどもいるそうだが、アリアルの場合は、住処がなければ食事や睡眠がとれないのだそうだ。
そこで、新たな住処を探していたアリアルは、たまたま俺が作ったゲームに目を付けた。
快適に暮らしていたところ、俺が今日ゲームを完全削除しようとしたから焦って出てきた……という経緯であった。
なんか、ヤドカリみたいだな。
「まさか、俺が企業に送ったexeファイルにも住み着いてたんじゃないだろうな?」
『……、……』
コンパイル済みのデータは居心地が悪いから、そっちには行かなかった、と画面の中の彼女が答える。
PCにはマイクすら接続してないのに、俺の声が聞こえて、受け答えもできるのか。
いよいよ、彼女の言っていることは嘘ではない気がしてきた。
『……、……、……』
「へえ……」
アリアルが続けてきた話は、俺にとっては興味深い提案だった。
データを削除するのをやめてほしい。
そしてこのまま住まわせてほしい。
代わりに、自分の能力を貸し与える。
まとめると、そんな感じの話である。
能力を貸し与える、とはまたファンタジックな展開である。
何ができるんだと思ったら、こちらの思考を読んだかのように彼女が詳細を話した。
「え、まじで……? できるのか、そんなこと……」
アリアルと同じく、俺もこのゲームの中に入れるようになる。
PCの電源オン・オフに関わらず、データが消えさえしなければ出入りは自由。
そして、俺がPCを使ってゲームの内容を書き換えれば、その通りに書き換わったゲームの世界にまた足を運べるのだ。
「面白いな。その話、乗った」
就職のことなど彼方まですっぽ抜けて、俺はアリアルの誘いに頷いた。
デバッグモードのユニットは、正直チート過ぎる。
ダンジョン最深部のボス魔物でさえ、序盤の雑魚同様に一撃で倒してしまうのだ。
そんなわけで自分が楽しむために、俺は自分専用のユニットを3つ用意した。
スキルやステータスの伸び、外見設定やUIなど、細かくキャラメイクしてスタート。
製作者側の知識として、どこに何があるか完全に把握しているため、それでも冒険はさくさく進んだ。
素人に毛が生えたレベルの自分が作ったゲームが、VRMMOのように立体感ある世界へ進化している。
それだけでもじゅうぶん感動したものだったが、ふと、あることが気になった。
「なあ、アリアル。ゲーム設定の外見のまま、こっちの世界に戻ってくるってできるのか?」
『……、……』
できるわけない、と返ってくるだろうと思っていた質問には、意外な答えがついた。
外見の再現は限度があるが、あちらの装備なら持ってくることが可能……。
『……、……、……』
今まで先入観で「できない」と思っていたが、どうやらあちらの世界で習得したスキルは、こちらの世界に戻ってきても使うことができるらしい。
アイテムボックスに装備などを詰めて、こちらの世界に戻ってくれば、日本でも同じ装備を身に着けることができる……というやり方である。
それは、あれだ。
PC使って金塊とかを無作為に配置して、あっちの世界でアイテムボックスに回収して、こっちの世界に持ってきて換金すれば。
「ビバ! 不労所得!」
就職失敗した負け組の俺が、勝ち組に変わった瞬間であった。
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