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好きな人の好きな人の話を聞いている気分の好きな人とかいうゲシュタルト崩壊(3)
「まあ、とにかく分かったこととしては、勝宏くんのスキルの進化先が3つに増えて、今回増えた1つはあのショタが所有していたスキルだった、ってことね」
透が何かを言おうとして取りやめたことも、詩絵里には伝わってしまっているだろう。
だが、彼女はこの場で訊き返すようなことはせず、話のまとめに入った。
「それから、勝宏くんのいま現在のスキルの解説文”模倣はやがて理想になる”だけど……これ、今のスキルの内容だけじゃなく進化後のスキルの内容のことも指してるんじゃないかしら」
勝宏のステータス画面からパソコンへ書き写した一文をドラッグで反転させながら、詩絵里が続ける。
「今の勝宏くんのスキルは、既存のアニメやゲームなんかのキャラクターになりきる形で身体強化するスキルでしょ。これは”模倣”ね。
それが”理想”になる――私の推測でしかないんだけど、スキルを成長させると後々、キャラクターを改造できるようになるんじゃないかしら」
「改造……?」
「たとえば、パワーはあのヒーローの馬力で。速さは別のヒーローの速度で……みたいに、組み合わせられるようになるとかね」
それは、ゲーム制作でいうところの「キャラクターデータの編集」だろうか。
なんの情報も伝えていなくとも、詩絵里はかなり近いところまで推測してきた。
イベントを作成するスキル、キャラクターを編集するスキル。
ここにフィールドを作るスキルなどがあれば、本当にゲームができてしまう。
「それはすごいですけど、なんだか見た目エグいことになりそうですねー」
部屋の隅で丸まっていたクロを撫でながら、ルイーザがのほほんと感想を述べる。
「あら、この感じだと見た目も”理想”通りになるかもしれないわよ? 見た目は3割増しカッコイイ顔面にして身長も弄って、そのうえで能力は変身ヒーロー並み……みたいなね」
「やですよ、それもう別人じゃないですかー」
好き勝手言い始めた女性陣をよそに、当の勝宏は腕を組んで首をかしげている。
「んー……透はどういうタイプが理想? 顔とか」
「え……えっと、勝宏が一番、かっこいいと思うよ」
外見も中身も総合的に、ここまでかっこいい男もそうそういないだろうと透は思っている。
パーティーの女性陣からの評価は微妙なようだが、それは単に彼女たちの好みでないというだけなんじゃないだろうか。
「俺は身長はもうちょい欲しい気もするけど。透の身長よりもすこし高く」
「それは俺がもたない……かな……」
勝宏を、見上げる身長差? いや、それはちょっと、心臓によろしくない。
これ以上かっこよくなられても困る。
そのままの君でいてください。
勝宏も回復したため、一行は話し合いののち、再びクロの背に乗って次の目的地へ向かった。
クロの巨体で街まで乗り付けると騒ぎになってしまうので、街から1キロほど離れた地点で降りて徒歩移動だ。
大陸東、ルカナ皇国。アジアっぽい街並みや風習のある地域で、米の栽培がされている。
日本食に近いものを食べたい転生者は、ここ付近を拠点にすることが多いそうだ。
例の「神の御業でエリクサーを作る少女」は、ルカナの中心地にある教会によく出入りしており、彼女の作った薬品の類は皇国内でのみ販売されているとの噂である。
「今回は門番にヒロイン見つけたー! とか言われなくて済んだな」
「普通門番はヒロイン探しませんって」
皇国内へ比較的すんなり入ることができたこともあって、身構えていた勝宏は拍子抜けの様子だ。
宿を取って、勝宏に預けっぱなしだったアイテムボックスの中身を入れ替え、最後に本日の予定を確認したら行動開始である。
「この間みたいなことはそうそうないでしょうし、エリクサー探しは私たちでやっておくわ。透くんはダンジョン探しの方、よろしくね」
「はい」
「今まで以上に、転生者には気を付けるのよ。ウィルもいるんでしょ? 透くんの意思に関わらず、転生者と遭遇したら即強制転移で宿まで連れ戻すくらいのつもりでお願いね」
『こいつおまえのオカンかよ』
実体化しておらず、詩絵里にはウィルの声が聞こえないのが分かっていてもなんとなく気恥ずかしい。
「そうそう、もう透さん一人の体じゃないんですからー」
「ん? 透は一人だろ?」
回復の要になる透が倒れたらまずい、という意味であの定型句を使うルイーザに、言葉を字面通りに受け取った勝宏が的外れな突っ込みを入れる。
「クロは私たちと一緒ね。じゃあ行きましょうか」
もう何度目かの空きダンジョン探しである。
石板の確認も手馴れてきて、今はもう該当フロアに飛んですぐ石板をチェックできるようになった。
このままいけばダンジョンの石板目利き職人になれる気がする。
そんなニッチな職業に需要はないが。
ウィルの探知も慣れてきたようで、ダンジョンから直接次のダンジョンに転移する始末。
おかげで詩絵里たちと別行動を取ってからここまで、ほぼ外の光を拝めていない。
はい次、はい次、とヒヨコの選別でもしているかのような気分で転移を続けていると――うっかり、”アタリ”の石板をスルーするところだった。
「あ! ウィル、あったかも!」
ウィルもまた流れ作業で転移を繰り返すものだから、次に移りかけてひとつ戻るはめになってしまった。
だが、今度こそは――。
「これだ。詩絵里さんたちに伝えに行こう」
見つけた。
ここが、探していた「コア未登録のダンジョン」だ。
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