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会長様からのお願い内容

  「大丈夫かい?智志君」 「……さんきゅ」  会長様からくらったデコピンは武器だとわかった。恐ろし過ぎる……。  額のど真ん中に出来た赤紫の痕。  血は出なかったものの内出血はしたんじゃないかと思うぐらいの色が浮き出てきたから、冷やそうとトイレから出たら王司と遭遇してしまったのだ。  俺はあまり利用されないような校内の男子トイレにいたはずなんだが……。  王司も周りに人がいないのを確認して俺に話しかけてきた内容はデコピンをされた直後の痕だった。  保健室で氷を貰おうとしたが王司に手を掴まれてわざわざ学校を出てまで寮に戻り、俺達の部屋についてはソファーに座らされて多少、慌てた様子で氷を持ってきてくれた王司に礼を言ったところだ。 「智志君、トイレの壁に頭ぶつけてこうなったの?」 「まぁ……そうだな、そうしよう」 「智志君?」  きっと心配してくれてるんだろう。  氷で隠れてる怪我の部分を覗こうとしているのか、それとも別のものなのか、とりあえず異常に王司との顔が近い。  あれ以来、こんな至近距離になった事がないから焦る。  一瞬の絡まる視線から逃れるためにふいっと目を逸らせて王司の向こう側にあるテレビ画面を見ていた。  なにも写ってないし今の時間はなにがやってるのかわからない。  だって今、授業と授業にある短い休み時間だったんだぜ?  それなのにこいつは本当に唐突な行動をするというか……。 「智志君、痛い?」 「んー、ジンジンはするな」 「ぶつかった智志くんはドジっ子な面もあるんだね」 「ドジではないから。……王司、」 「さとしくん」  なにも映っていないテレビ画面は真っ黒。その反射で真っ黒い画面には鏡みたいによく見える。  ずっとそこを見ていた俺と、視線を逸らしてる俺をいい事にゆっくりとどんどん近付いて来る王司に『近ぇよクズ』と出そうになった――が、堪えた。  こう言ってしまえば奴の思い通りな展開になってしまうからだ。クズなんて言葉に。 「さとしくん、おまじないしてあげようか」 「バカか、そんな年齢でもなければお前が言うと変に聞こえるっつの」 「さと、んぅ……」  デコピンされた場所を氷で冷やしていたら王司がその氷に額をそっと当ててきて、お互いの唇も容赦なくくっつきそうだった距離に俺は危機的ななにかを感じ取り、王司の口元を手で塞ぐ。  うるさいぐらいに俺の名前を呼ぶ王司。腰に腕を回されて、体までも密着状態。塞ぐ口元が少し動いたような気がして、嫌な予感も同時にやって来た。 「っ、王司」  舐められた手のひら。 「ん、さとし、くん……」  くぐもった声でも俺の名前はちゃんと言う。  近過ぎる顔に目も逸らせたままではいられなくてテレビ画面から王司に視線を戻すと、予想通りというか……ずっと俺を見ているその目から逃れられないような気がしたのだ。  俺は座ったまま。  足の間にいる王司は膝立ち、プラスほとんどの上体を俺に預けてるせいか見上げられる角度に慣れてなくて、少しだけドキッとした、なんて……おかしいぞ、俺。  マジで、おかしい。こんな頼みは。 『雅也は中沢 智志、お前に夢中になっている。今のところ生徒会に支障をきたしてることはないが、こういった順位で落ち始めている。お前が雅也のスイッチを押して、気を立たせてほしいんだ。お前が原因でこうなったんだから、立たせるのもお前次第になる』 ――どうか逃げずに、あいつはスゴイから。 「会長様のやつ……無茶過ぎる事を俺に言ってきたもんだ……」 「……ッ、智志くん!」  塞ぎで使っていた俺の手を握り、頬擦りされては一旦離れた距離に目を丸くする俺。  どうやら俺が会長様と呟いたのが原因みたいで悲しそうな表情を浮かべている王司。  休み時間とはいえもうそれもとっくに終わってるだろう時間は今から戻る気もせず、これはサボりだなと思いながら今度は俺の意思で王司の頬を触ると悲しそうな表情なんてぶっ飛んで微笑んでいた。  微笑んで――、 「さとしくん、このまま抓ってもいいよ、ね?」 「……歯を食いしばれ、ドM野郎」  甘えるような声は、微笑みの裏に変態的な笑みも宿っていた。  

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