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犬でも投げたボールを持ってくる

   学校も終わり、部活や委員会に入っていない俺はすぐに寮へ戻りドアを開けながら、ただいまと声に出すもののシーンッと静かで王司がいないんだな、とわかった。  平三から教えてもらった王司 雅也の成績。  上位に食い込むぐらいだから噂程度で聞き流していたものだが、まさかの899点には驚きもなにもわからないでいる。  それに会長様だって中学からずっとトップとか言ってたくせに一度でも王司に抜かれてるじゃないか……毎回トップを取るのもすげぇけどさ!  鞄をソファーに放り投げて今夜の飯を決めようと冷蔵庫の中身を覗くと大量のたまごを見つけた。  そういや安くてなんか買っちゃったんだよな……今日の菓子もトリュフでたまごを使ったわけでもないし、その前はゼリー作って、その前はたまごを使わなくてもケーキやスイートポテトが出来るって雑誌で見て挑戦したしな……。  よし、オムライスでいいか。  基本的に文句を言わず食べる王司は、本当に味わってんのかよと疑ってしまうくらいバクバク食っておかわりをする。  おかわりするってことは少なくとも不味くはないんだろうけど、早食いの大食いってどうよ。  それでいてあのスタイル保つあいつはマジでなんなんだよ……化け物って会長様じゃなくて王司なのかもしれないな。  とりあえず制服から私服に着替えようと自室のドアノブに手をかけて開けようとしたが、 「……ん?」  開かない。  確かに鍵は付けてあるが、あれは内側からしかかけれないものだ。  見慣れてる一般的なあの鍵は必要なくて内側に付いているつまみを横にするか縦にするかで鍵がかかったり開いたりするんだから。  だからおかしいんだ。  例えば、今このドアに鍵がかかっていたら……この部屋の中に、誰かがいることになる。つーか、もう人物は特定してるけどな! 「おい王司!なんでお前が俺の部屋にいるんだよバカ!出て来い殴るぞ!」  ドンドンドンッ!と自室のドアにもかかわらず壊す勢いで叩きながら王司がいるであろう確信もあり、声をかける。  だが、あいつは本当に、良い意味でも悪い意味でも、正直な人間だ。 「はッはぁ、さとしく、んがッ、帰ってっ、来ちゃ、ったぁ……」  ドア越しで耳に伝わった声は間違いなく王司 雅也。  随分と厭らしい声の王司だった。 「ちくしょう……!てめぇなにしてんだよ!なんで……なんでオナってんだよ……!」 「んん、ふぅ、はッ……だって、なんか、我慢出来なくて……殴るって言われた瞬間、イっちゃった、はは……」 ――イっ……!?  膝から崩れ落ちる。  わかっていたはずの王司、だが、やっぱり俺の口は悪く吐いてしまう。つまり、俺のさっきの行動は全部王司からしたら喜ぶようなことになるのだ。  バカもボケも死ねも、子供っぽい言葉だが王司からしたら褒められて嬉しがるものだろうし。  殴るはもちろん、殺すなんて言葉もあいつからしたら良い言葉なのだろう……加えて俺はドアを叩いていた。  これは予想だが、あの叩いた音も王司の場合、興奮材料になっているんだと思う。  王司 雅也と似合う相手ってDV系じゃね……?  それにしても……はあぁぁ、信じらんねぇ……。  襲われたのを除くとしても俺の部屋で自慰行為されるのはこれで二回目だ……いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。  一緒に学校へ向かわなければ帰りも一緒なわけがない俺達。学校ではあまり話すなといってあるからか、王司はそれをきっちりと守っている。  お互いがお互い、先に帰ったのかまだ帰ってないのかわからないまま。  そこで思い出してみると、王司の方がはやく帰ってる時の方が断然に多いんだ。  平三と木下の三人で放課後は喋ったり、本屋に行ったりで遊んでる俺も俺だが、素直に帰ってもだいたい王司はいる。  爽やかな笑顔で元気に、おかえり、と声を掛けてくるんだ。……あの爽やかな笑顔も元気もソコから出してスッキリさせてるからなのか?  あり得る想像に俺はもうどうしたらいいか……。 「……」 「……王司、落ち着いたか?」  静まり返る部屋に俺はドア越しで、今度は優しめに声を掛けてみる。  すると王司は少しだけ掠れた声を出しながらも、もぞもぞ動いてる音を立てつつ『うん、落ち着いた』と返してきた。  俺は今からあのニオイが充満した部屋に入るのか……。出したばっかっぽいから足元とか気を付けよう……王司の事だから絶対に一発じゃねぇよなぁ。  元気だな……。  

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