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第1話

円と研人の場合 円。→赤瀬円(あかせ えん)。先輩。研人よりも身長が低いのを気にしている。平均身長だと思っている168cmのツンデレさん。顔は可愛らしいが負けん気は強い。押しに弱いので押し切られて関係を結ぶも、実は円も研人のことが好きだったと言うオチ付。 研人。→野村研人(のむら けんと)。後輩。やたら身長がある。2m近い。能天気で天然。ひたすら円が好き。顔は堀が深くモデル並だがモテてる自覚なし。彼のご機嫌を取るのが日常の一コマとなっている。それもこれも好きの極み。彼の犬。 ****************************************** 「帰りが遅いっ!」  円は研人の帰りが遅いのに、少し苛立っていた。  同居を始めて一ヶ月。今日は特別な日だと言うのに肝心の相手がいなくては意味がないではないか。 「あいつ、今日はあれほど早く帰って来いと、言っておいたのにっ……!」  円はテーブルの上に並んだ食事がすっかり冷めてしまったのに顔を曇らせていた。  初めて作ったエビフライに定番のレタスサラダ。それだけじゃ芸がないのでモッツァレラチーズを打ち込んでモッツァレラレタスサラダにしたサラダ。それに加えて作り慣れていないオムレツを作り、コーヒーゼリーもちゃんと手作りをした。でもさすがにケーキを上手に作れる自信はなかったので、それは予約をしておいて昼間取りに出かけた。それほどするまでに大切な日。  今日はあいつと初めて結ばれた記念日だったのだ。  これは誕生日とかよりも大切な日だと円は思っているのだが、どうやら相手は違うようで、ちょっと切ない。  時計は八時を回ってしまった。  いつもなら六時には家に帰ってくると言うのに、今日に限ってそれは反故にされた。 「くそっ」  仕方がないので自分だけ食事をするとお風呂に入って寝てしまおうと黙々と口を動かす。 「おいしくない……」  ふたりで食べればおいしいものも、ぽつんとひとりだけで食べるのはとても空しい。いつもの半分も食べないでシンクに皿を放り込むと浴室に向かう。  洋服を脱いで裸になったところで玄関のドアがガチッャと開く音がした。 「あ…いつぅ……」  一言何か言ってやりたい。だけどそれをこの格好で言うのは、とても嫌だったのでそのまま浴室のドアを開けると中に入った。シャワーを捻って体を洗っていると洗面所のドアが開く音がした。そして曇りガラスの向こうに大きな人影が立つの振り返って見つめる。 「あのっ…円さんっ」 「……」 「帰り遅くなって申し訳ないですっ!」 「……ふんっ」 「出たらたっぷり謝りますから、怒らないでくださいね」 「ばかっ」  何言ってるんだ。そんなの怒るに決まってるだろっ!  言葉にはしないが、心の中で思いっきり叫んでいた。  研人はそれだけ言うとリビングにでも戻ったのか姿が見えなくなった。円はホッとしたような、ちょっと残念なような気がしている自分に恥ずかしさを覚えた。 「あいつめっ」  それもこれも全部あいつのせいなんだからなっ!  風呂から出たら早速カミナリを落とてしやろうと意気揚々とリビングに向かう。だけどその勢いもそこまでで、彼の姿を見た円は目を見開いた。 「……」 「あのっ……。すみません。ちょっと時間かかっちゃって…………」  正座した彼が手に持っていたのは、小さな箱だった。それはたぶん指輪を入れるケースだ。そしてそれが開かれて中身を見ると、いかにも手作りと言っ感じの銀色の指輪がふたつ入っていたのだった。 「…………」 「これ秘密で作ってんですけど、どうも俺、人よりヘタみたいで……。思ったより時間かかっゃちたいました」  へへへっ……と頭をかきながら言われると怒るに怒れずに、逆に涙が出て来てしまった。 「お…前何やってんだよっ」 「あれ、こういうのは秘密でやらなきゃ意味ないんだって、前に円さん言ってましたよね?」 「そりゃそうだけど……」 「だから俺、ヘタだけどちょっと頑張りました。サイズ合うといんだけどな」  言いなが膝立ちで近寄ってきた研人に右手を取られて薬指に指輪を差し込まれる。 「ちょうどいい。良かったぁ」 「……」 「じゃ、今度は円さんが俺の指にこれ、お願いしますっ」  ケースから大きめの指輪を取って握らされると同じように指を出される。 「お願いします」 「……」 「ぇ、駄目ですか?」 「……っかばやろうっ」 「? すみません」 「そ…んな大事なこと、ひとりでするなんて」 「あっ、そっち? そっちですか。すみません。でもサイズいいみたいだし、結果オーライってことで」 「オーライじゃねぇよっ!」  流れ出てしまう鼻水をズルッとすすりながら、手で涙を拭う。とってもみっともないのは分かってる。分かってるけど、それほど嬉しいのだ。 「円さん、顔がグシャグシャですよ? ティシュッ取ってきましょうか?」 「いいっ」 「いんいですか?」 「いいっ。それより指輪、入れるぞ」 「ぁ、はい。お願いしますっ」  緊張とともに相手の指にも指輪を入れる。 「こっちもバッチリ。ってか、こっちは合ってて当然かっ」 「……」 「お揃ですよ?」  ふふふっ…と含み笑いする研人をぐぅで殴る。 「ちょっ……痛いですって」 「俺に黙ってたバツだから」 「すみません。でもサプライズって難しな……」  平謝りする研人を今度はギュッと抱きしめながら、彼の頭で鼻水を拭う。 「ちょっ…円さん!」 「お前が悪いっ。お前が悪んだからなっ」 「はいはい。分かりましたから、髪に鼻水つけるのやめてくださいよっ」 「うぅっ!」  円は研人の頭を抱きかかえて頬でスリスリしながら左手で彼の手を探した。それに気づいた研人が手を重ねてくる。そして指に指を絡めて嵌めた指輪と指輪が、お互いを確かめるように触れ合う。 「ベッド行くか?」 「いや。それよりも俺、一緒に風呂に入りたいです。髪の毛洗いたいっ」 「……いっぺん死ねっ」  タイトル「惚れたもん負けのサプライズ泣き」 20190409

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