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11月 part 2-2

「拓叶さん!このお米、すごくおいしいです!お米一粒一粒がたっていて、艶やかで。香りも優しいし、なにより噛むと上品な甘みを感じます。少し固めに焚いているのもいいですね! このお米、銘柄はなんですか?」 「銘柄?そんなもん知らん。じいちゃんの米」 絶句する七星を見て、俺は思わず吹き出す。 「だって、マジで知らねえんだもん。俺の地元の、大分県の米だよ。 そういや、おまえ、どこの県出身?」 「僕は、埼玉県出身です。親の職場が東京だったので。 …えっと、大分県ってどこでしたっけ?」 「あっひど!この都会っ子が! 九州だよ。ほら、別府や湯布院って有名な観光地があってさ、温泉の源泉数と湧出量が日本一なんだよ。 あとは…そうだな、およそ千匹の猿が暮らす、高崎山っていう観光地がある。動物園みたいにオリや柵の中に入ってんじゃなくて、ガチで自然界と同じように生活してるんだよ。 だから係員さんに、危険だから猿と目を合わせないように、猿に盗られるからポケットにお菓子を入れないように、って注意される。 んで、年に1回、お猿の総選挙が行われて、結果はローカル局のトップニュースになる」 目を丸くする七星を見て、俺は耐えきれずに声をあげて笑ってしまう。そして、いま思いついたことを七星に提案してみる。 「なあ、七星。おまえさ、まだ有給取ったことないだろ? そういや俺、今年はなんだかんだ忙しくて、帰省してないんだわ。年末年始に入ると忙しくなるし、11月のうちに、数日間、有給取ってさ。一緒に俺の実家、行ってみないか?ほら、気分転換になるかもしれないしさ」 七星は何回か瞬きをしてから、俺に微笑み、肯定の返事をしてくれた。

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