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11月 part 3-3
「…母さん、また増えた…?」
「あら、大丈夫よ、拓叶。最大、8匹いたこともあるじゃないの。5匹くらい大丈夫よ」
黒猫のあずき、トラ猫のちょこ、三毛猫のみぃ、仔猫のカフェとラテ。単身赴任が多い父さんに業を煮やし、母さんは猫を飼うことを生きがいにしている。だから、物心ついたころから、俺は猫と一緒に生活してきた。
うちの実家は、古くて無駄に広い、典型的な田舎の古民家だ。傾きのある瓦葺きの屋根。漆喰の壁、竹格子の引き戸の玄関。家のまわりは、稲刈りを終えた田んぼと用水路。点々と見える民家。
家の中は、台所やリビング、お風呂、トイレの他に、畳の部屋が4部屋。
その無駄に広い家のなかで、思い思いにくつろぐ猫たち。貫禄ある大人の猫に比べ、仔猫たちは元気が有り余っているようで走り回っている。
「可愛いなあ。ふわっふわしてる。ああもう、可愛いなあ」
さっきから、可愛いを連呼している七星。ソファーに座り、トラ猫のちょこを膝に乗せている。今まで見たことがない、幸せそうな、蕩けるような笑顔だ。頭や喉を撫でられて、トラ猫のちょこも、喉をゴロゴロ言わせて気持ち良さそうにしている。…なんでだろう、何故だか無性に猫になりたい気分だ。
「拓叶さん、見てください!僕の指を舐めてくれてるんですよ!ああ、可愛いなあ!」
…頼むから、そんな顔全体が緩んだような、ふわっふわした笑顔で俺を見つめないでくれ。目のやり場に困る。というか、なんかいろいろと困る。
その後、七星は母さんと一緒に台所に立ち、大分の郷土料理を教わっていた。母さんのテンションが異常に高い。よほど、七星を気に入ったようだ。
夕食に、じいちゃんの米と、とり天、だんご汁を食べ、ひと心地ついたところで、うちの家族による酒盛りが始まった。
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