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第3話

 王妃の生んだ子はどれ程幼かったとしても王位継承権第一位となる。その取り決めがある以上、誰を王妃にしたところで角が立ち、誰かが大きな顔をする。それほどまでにオルシアという国は強大で魅力的なのだ。  アルフレッドが王妃を決めないことを良いことに、国や貴族達が一人に限らず幾人も乙女を送り込んでくる。国であれば最初は貴族の娘を、駄目なら王族の娘を。貴族なら最初は直系女児を、駄目なら妾の子であっても良い、と。そんなことが続き、とうとう昨日嫁いできた隣国の皇女でアルフレッドの後宮に住まう側妃の数は五十に到達してしまったのだ。  富国であるオルシアは側妃が五十人になろうと民には影響が出ないので国民からの文句は出ない。そこは問題ないのだ。では何が問題か。それは、まだまだ増える一方で収まる気配が全く見えないからだ。興味の欠片もない女達が増え続け、後宮では王の寵愛を巡って争いが絶えず、アルフレッドが現れれば我先にと近づいては腕に纏わりつき、しなをつくっては誘いをかける。そんな日々にいかな温和であるアルフレッドも限界が来ているのだ。ならさっさと王妃を決めろと言いたいところだが、決めない理由が理由なので誰も何も言えない。 「……陛下、大変申し上げにくいのですが」  内心をうかがい知れない笑みを浮かべながら、伸びた髭を一撫でして声を上げたのはオルシア大国宰相を務める壮年の男――ジェラルドだった。会議の間に集まった重鎮達はジェラルドとアルフレッドを交互に見るが、じっと口を噤んでいる。 「……なんだジェラルド」  発言の許可を得たジェラルドはでは、と口を開く。 「先日後宮にお入りになられました隣国バーデン公国公女ルーシェ様のお部屋をご用意いたしましたが、こちらのお部屋で後宮にある部屋は全て埋まりましてございます。これ以上ご側妃が来られますようでしたら後宮を新たに増築せねばなりません。国費としてはさしたる問題はございませんが」  そこでジェラルドは一度言葉を途切らせた。真っ直ぐに年若い国王を見る。 「後宮の増築を陛下は望まれますか?」  その時ピクリと王の眉が動いたのが誰の目にも映った。アルフレッドには珍しく不機嫌さを隠そうともしない。

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