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20年目の・・・

 居間のテーブルに朝食の味噌汁椀とだし巻き玉子と焼き鮭の入った皿を乗せながら俺は壁に掛けてある時計を見た。  時間はもう六時、そろそろあいつを起こさないと。  ドスドス足音をさせ廊下を歩き書斎に入り部屋の大惨事に顔を顰める。昨日の夜中に帰ってきてそのまま書斎で寝てしまったのだろう俺の恋人、笠原(かさはら)静琉(しずる)がガーゴガーゴとイビキをかいて平和そうな顔をして机に突っ伏して寝ていた。 「静琉、時間だ。起きろ」 「……んん…………」 「起きろっての」  肩を揺らすとむくっと起き上がった静琉がふわーと大きな欠伸をし、ぼーっとしたまま顔だけ俺の方に向けた。 「竜之介さん、おはよう」 「ん、はよ。飯出来てるぞ。それよりも、寝るんならちゃんと寝室で寝ろっていつも言ってるだろ」  十も年下の俺の恋人静琉は、朝が弱い。寝汚い訳ではないんだが、低血圧なせいか脳が覚醒するまで時間が掛かる。  四十一歳で営業部部長、社内の誰もが認める容姿と手腕と頭脳。  ぼさぼさの髪によれよれのTシャツ、目元に目やにつけて……静瑠の朝のこの状態を見たら女子社員なんか幻滅しそうだなと独りごちる。  一緒に住み始めた頃はなんともだらしないヤツだ、なんて思っていたけど、今では俺が起こしてやんなきゃとか、これも恋人だけの特権だよなって思う。  ……俺って案外キモいな。 「ほら、起きろって」  手を引っ張って立たせ背中をポンって叩くとようやくもぞもぞ動き始めた。 「ちゃんと顔洗ってこいよ?」 「んー」  俺が声を掛けると静琉が着ているシャツを捲りあげながら書斎から出て行くのを見て、俺も途中になってしまっている朝食の支度をせねばと居間に急いだ。  甲斐甲斐しく世話をし、まだ寝ぼけ眼の静琉に熱い珈琲の入ったカップを渡したところでやっと頭を働かせ始めた静琉を見て俺も急がないと遅刻するなと自分が作った朝食をかっ込む。 *** 「静琉、今日の帰りは何時になるんだ?」 「分からない。今日だけで会議が三回あるし、行くとこもあるから……」 「そうか……飯、どうする?」 「一応作っておいて。僕、ハンバーグ食べたいな」 「分かった」  玄関で靴を履いた静琉が俺に靴べらを渡し「いってきます」と言って出ていく。  その背中を見るのをいつから寂しいと思い始めたのだろう。若い時は出かける時にはいってらっしゃいのキスだってしていた。お互いに忙しくない時は、一緒にご飯を作ったり、風呂に入って体を洗いあったり、そんな甘い生活もいつまでだったか……もう、思い出せない。  同棲を開始して十年、恋人歴は二十年、そこにいるのが当たり前、側にいるのも当たり前、気づけば空気のような存在になったのは、いつだったか…… *** 「二十年、か……」 「何か言ったすか? 朝尾さん」  三年前に総務部に配属になった同僚が訝しげに俺の顔を覗き込んできた。 「いいや。それより、駒田、この伝票営業部につき返してきてくれ」 「ええっ! いやっすよ。営業部の佐古課長怖いっすもん」 「いいから、行けって」 「うぅぅ……分かったっす。そのかわり、今日昼飯奢ってくださいっすよ?」 「お前が変な敬語使わなかったら佐古課長も怒らねぇよ」  「敬語だけじゃない気がするっす」といいながら渋々駒田が伝票を受け取りぶーたれた顔をしたまま立ち上がった。  俺はその背を目で追って総務部を出て行くのを見てからパソコンに顔を向け、傍らに置いた伝票の数字を打ち込み午前の仕事を早く終わらせるべくキーボードを叩いた。 ***  夕方六時、定時で仕事を終わらせた俺はいつもの通りにスーパーに寄って夜の献立を考えながら、通路を歩く。  昨日の夜の残り物と、そういえば静琉がハンバーグを食べたいと言っていたのを思いだし、肉コーナーの方に向かう。  四十一の静琉は未だに肉系が大好きだ。三百グラムのステーキをペロリと平らげるし、焼肉店では脂肪つきのロースを好む。俺が胃を押さえる目の前でご飯大盛りを片手に平らげるのだ。  豚と牛の合挽きのパックと牛と豚のミンチのパックを一つづつ持ってうんうん悩んでいたら、背広の内ポケットに突っ込んだスマホがピロンと鳴った。 「早くに仕事が終わりそうだから家でご飯を食べる、か……分かった。今日はハンバーグだぞっと……ん?」  俺が返事をしたらラインの画面に血を口端から垂らしたバンザイの格好の黒いクマのスタンプが流れる。 「ハンバーグで喜ぶって、まるで子供だな」  クスクスと笑いいつものように牛多めのハンバーグにするか、と牛と豚のミンチのパックと青果コーナーで野菜を色々見繕いレジに向かった。 ***  里芋煮は明日の朝に俺が食べるとして……ハンバーグに添えるのはやっぱサラダにスープだよな。味噌汁でもいいけど、やっぱスープだな。出来上がった晩御飯を居間のテーブルに並べながら俺は壁にかけてある時計を見る。  時刻は八時。さすがにまだ帰ってはこないだろう。  ハンバーグは後焼くだけだし、一風呂浴びるか。  並べ終えたものに緩くラップをし寝室に行って着替えを持つと風呂に向かう。  静瑠が帰ってきたら湯船に浸かりたいって言うかもしれないから体を洗いつつ浴槽も洗って湯を溜めシャワーでざっと体を流すと早々に俺は居間に戻ってソファーに座った。 「まぁ、まだだよな」  風呂から上がってそんなにたってないしな。  スマホをポチポチと操作して何かいいのはないだろうかと見るのだが、いつも見るのは主婦の人々がブログにあげてる料理やクックパッド。  ほう、これにこれが、と新たな献立になりそうなのを見つけてはそれを近くに置いてあったメモ帖に書きこむ。 「主婦かっ」 「主婦だね」 「うぉっ!……っくりしたぁ」 「ごめんごめん。玄関で一応ただいまって言ったんだけど、声がしなかったから寝てるのかなって思って。竜之介さん、ただいま」 「あ、あぁ、おかえり。飯、すぐ食うか?」 「うん、あ~……久々に竜之介さんのご飯が食べれる」  ドサリとソファーに座ってきた静瑠がネクタイを緩めそんな事を言ってくれるのを嬉しく思う。  俺は顔がニヤケないように口元を引き締めると勢いよく立ち上がった。 「すぐ支度するから待ってろ」 「うん」  スープ皿に温めたスープを入れ、ハンバーグを焼いた後の肉汁でいつものソースを作りテーブルにぱぱっと並べていく。静瑠は難しい顔で書類を眺めていたが、ハンバーグの匂いに釣られたのか顔を上げた。 「やっぱハンバーグって言ったらこのソースだよね」 「ただのソースだろ」 「違う違う、竜之介さんが作ったこのソースがハンバーグに絶妙なんだよ」 「そんな立派なものじゃねぇよ。ハンバーグ焼いた後の肉汁にソースとケチャップとマヨネーズ入れただけだ」 「分かってないな~。いただきます」 「はい、いただきます」  居間に食器を箸でつつく音と電源のついたテレビの音がするだけ。  かちゃかちゃ、かちゃかちゃ。昔は食事中にお互いの事を話していたけど、最近ではあまりない。 「竜之介さん」 「はい、醤油」  会話と言ってもこれくらいで後は淡々と食べるだけ。白菜の浅漬けに醤油を掛けた静瑠が顔をテレビに向ける。 「ふふ」  静瑠がテレビのバラエティ番組を見て笑う位。 *** 「はぁ……眠いけど、まだ仕事残ってるんだよね」 「書斎行くんだろ? 珈琲もっていこうか?」 「うん」  晩飯も食べ終わり立ち上がった静瑠から名刺のようなものがヒラリと落ちたのが見えて俺がソレを拾い上げた瞬間 「な、何でもないから!」  と叫んで俺の手から名刺らしきものを奪い取り静瑠がドタドタと書斎に向かった。 「何だ?」  首を傾げて廊下を見るも静瑠は書斎に入ったのかパタンとドアの閉まる音が聞こえてきた。  まぁいいか、と俺は片付けを始め書斎で仕事をいているだろう静瑠の為に珈琲を入れて持っていった後は特にすることもなく寝室で寝た。 ***  「今日は絶対奢ってくださいっすよ!」と言われ、昼食時俺は駒田を伴って会社の食堂に入った。  広い食堂は何百人と入っても余る位の広さがあり、最近リフォームも済んだこの食堂は、料理の味も一段と上がったと今では社内のほとんどの人間が使っている。前と違ってヘルシーメニューまで出てくるから女子社員にだって人気が出てきた。  食堂の入り口でウドンと駒田に頼まれたヒレカツ定食の食券を買い、列の進んだ先で二つの料理を受け取り駒田を探す。  見つけたと思った駒田は何を思ったのか、女子社員が多く座るテーブルの辺りに席をとっていた。 「浅尾さんこっちっす!」 「大きな声で喚くな」 「早くくださいっす」  涎をたらしそうな駒田にヒレカツ定食のトレーを渡し向かいの席に座ると俺もウドンを啜った。 「浅尾さんそれだけっすか?」 「昨日の夜にハンバーグ食べたから軽めのものがいいんだよ」 「ハンバーグ、いいな~」 「彼女にでも作って貰えばいいだろ」 「この前別れたっす」 「別れたぁ!? まだ付き合って三ヶ月じゃないか」 「別れたいって言うんっすから仕方ないじゃないっすか」  そうなんだが……  最近の若いのは、すぐ付き合って別れて、と忙しいな。  そんな事を思いつつウドンを啜っていると女子社員の一部がざわめいた。 「えー! あの噂本当だったの?!」 「なになに? 噂って」 「笠原部長と…………が付き合ってるって噂」  ん? 静瑠?  周りのざわめきが酷くて聞き取れない。 「……え? でも……部長公表してないけど…………………なかった?」  くそ。聞き取り辛い。少し声音上げるか、周り、静かにしてくれねぇかな。 「……室長も…………いたよね?」 「えーもしかしてダブル不倫!?」  室長? もしかして開発部の横井室長の事か? 「でもさ、あの二人入社当初から噂されてるんでしょ?」 「そうそう、隠してるけど入社当初から付き合ってるって噂」 「本当は笠原部長も横井室長も同棲相手がいるんじゃなくて、一緒に住んでるんじゃない?」 「それだったら何か納得する。横井室長美人だし美男美女で絵になるよね」 「近々結婚するって噂もあるよね」 「二人が?」 「二人で不動産屋に入っていくの見たって子がいたよ」 「「「うっそ~」」」 「そこから出たんでしょ? その噂」 *** 「美男美女で絵になる、か……」  定時で上がった俺は帰宅途中ぽつりと呟いた。  結婚するなら俺みたいな草臥れたおっさんじゃなくて横井室長の様な美人な人が良いだろう。そもそも男同士で結婚できる訳がないんだ。  噂にしたって根も葉もない事だが……  ”二人で不動産屋に入っていくの見たって子がいたよ”昼時の女子社員の言葉が頭から離れない。噂がどうであれ、不動産に行く程の仲なのなら、もしかしたら静瑠も結婚の事を考えてるのだろうか。  静瑠も人の子、いつまでも独身って訳にもいかない。結婚して子供をつくって家庭を築く。人間としてとても大切な事だろう。 それが俺じゃないってだけで…… 「あぁ……あの名刺」  そうか、そう言うことか。  昨日の晩飯の時に落とした名刺に静瑠は酷く動揺していた。  不動産屋を巡っているのは噂でも何でもない。静瑠は決めたのだ。俺と別れて今まで噂が耐えなかった横井室長と結婚する事を。 ***  いつものようにここ半年通うことになった書斎に静瑠を起こしに向かう。  ただ、その日だけ何か違った。  静瑠はボサボサの髪のままだったが、体をむくりと起こして俺を見て一言告げた。 「おはよう、竜之介さん。今日の夜話があるから」 「ああ……お、おはよう」  静瑠が俺の横を通りすぎる時、胸がズキリと痛んだ。 ***  恋人になって二十年、これまで色々あった。小さな下らない喧嘩もしたし、別れ話に発展するまでの喧嘩をした事だってある。  静瑠は俺と違ってまだ四十一歳だ。  総務部で万年平社員の五十一歳の草臥れた平凡なおっさんと、かたや四十一歳にして営業部部長、容姿も極上と言って良いほど。今の若い子の言うイケメンってやつだ。  十九歳で総務部にバイトで入った時もそうだけど、昔から優秀で何でも出来が良かった。  大学を卒業して営業部に配属されたとたんメキメキと力をつけて同期を圧倒するほど出世した。  恋人が十も下だからって無理してジムに通って体力作りをして家に帰って飯を作る俺と違って、静瑠は会社に貢献し、先日だって社長賞を貰ってた位だ。  そろそろ本社の部長にって噂もある。 「………さん」  二十年の間、ずっと側にいた。  それこそ、下の世話だってした事あったし、嘔吐物処理をした事だってある。ハンバーグとカレーが大好きな子供みたいな味覚で。  寝起きはいつもボサボサの髪にヨレヨレのTシャツ、目元に目やにつけて。休日は新聞を広げて腹をぼりぼり掻きながらソファーに座る姿が変におっさん臭くて。  酔ったら甘えたで泣き上戸でタチが悪い。俺と喧嘩するたびに泣きそうな顔で必死に謝って……そう、こんな顔で…… 「竜之介さん!」 「しず、る?」  名前を呼ばれた気がして顔を上げると、泣きそうな顔で覗き込んでいる静瑠がいた。 「どうしたの? 竜之介さん電気もつけないで。真っ暗だからまだ帰ってないと思ってたよ」  あれ? 俺、どうした?  いつものように静瑠を見送って会社に行って定時で帰って……そこまでは覚えてる。  だけどその先は?  きょろきょろと周りを見回し、ソファーに座っていると分かったのは俺の向かいに一人用のソファーに静瑠が浅く腰掛けているのが見えたからだ。  「ああ、俺……そうだ、飯」  「ご飯はいいよ。話があるって朝言ったでしょ? 話の後にデリバリーでも取ろう」  「あ、ああ……」  そうか、これから俺は……  涙が出そうになるのを慌てて堪える。泣いて別れるのではなく、笑って静瑠を送り出そう。  静瑠もきっとそれを望んでる。 「竜之介さんこれ見て?」  テーブルをとんとん叩く音に俺は俯けていた顔を上げた。テーブルの上には一枚の紙。設計図、か? 「竜之介さん、突然だけど引越ししよう?」 「え?」  まさか、別れるのに俺に家を用意したと言うことか? あ、いや。違うな。これは静瑠が住む家になるのだろう。 「僕達恋人になって二十年でしょ? その節目として、僕は色々考えてたんだ」  ん? どう言う事だ? 「今日何の日か覚えてる?」 「今日……」  はぁっと大きくため息を吐いた静瑠が眉尻を下げた。 「僕と竜之介さんが恋人になった日」 「あれ? 今日だったか?」  それは明日じゃ? 「正確に言うと明日なんだけど、明日運のいい事に日曜日でしょ? この家を建てる土地を見に行こうと思ってたんだけどね? 横井さんが恋人と一緒に見た方がいいし、設計図も見て貰った方が良いって言うから……見にいかない?」 「? ……どう言うことか分かるように説明してくれ、静瑠」 「本当はサプライズで用意して竜之介さんに喜んで欲しかったんだ」  ますます分からない。 「僕達恋人になった記念日に毎年お互いプレゼントを用意するか旅行に行ったりしたでしょ?」  こくりと頷く俺を見た静瑠がにこりと微笑む。 「二十年って節目に大きなプレゼントを竜之介さんに渡したかったんだ」 「それが家ってことか?」 「うん。竜之介さん後九年したら定年退職して家にずっといるようになるでしょ? 僕が家にいない間こんな賃貸のマンションじゃ殺風景で寂しいかなって思って、思い切って家を買う事を考えついたんだ。家で犬とか猫とか飼って庭に花壇とか作ったりしたら寂しくないかなって思ったんだけど……こう言う大きな買い物ってさすがに恋人に内緒で用意するのは恋人が不安に思うかもしれないし、恋人の意見も取り入れてお互いが住みやすい家にした方が良いって横井さんに言われてさ。だから、明日見に行かないかな~って……」  首を傾げて「駄目?」と聞いてくる静瑠に俺は声を出すことが出来なかった。俺との将来を考えてくれるなんて、ましてや老後の事も考えているなんて思ってもみなかった。  噂の不動産に行ってる話も俺とではなく、他の、横井さんと結婚するためにだと思っていたのに…… 「ちょっ! 竜之介さん何で泣いてるの!」  嬉しくて嬉しくて俺はぼろぼろと毀れる涙を堪えきれない。堰を切ったように溢れ、嗚咽が漏れる。 「…ひっ……うれし…く、て……うぅ……しず、る…しずる」 「あぁっ もう、この半年我慢してきたのに、何でそんな可愛いこと言うのさ!」  ソファーから立ち上がり、つかつかと俺の側に立った静瑠が俺の両頬を両手で掬い上げ俺の唇を吸う。零れる涙を啜り、綺麗な笑顔で俺の唇を啄ばんだ静瑠の瞳に情欲の炎が灯ったのが見えた。 「はぁ……竜之介さんいいよね?」 *** 「…んん! あ、あぁ……」  半年振りに繋げる体は準備半ばで盛り上がり、愛撫の途中で静瑠に「挿入()れてくれ」と懇願した。 「…くっ 竜之介さん力緩めて」 「あ、あくっ……緩めて、る…けど……あぁん」  触れられる体はどこも敏感で、静瑠の吐息が、静瑠が触れるだけで力が入る。前を扱かれるだけでイきそうになり、体がびくびくと震え、与えられる熱に心が喜ぶ。 「も、もう……しず、る…たのむ……いれ、ああああああっ」 「…………はっ すごっ」  一突きで突き入れられた瞬間俺のペニスから勢いよく精液が迸った。貪るように直腸が蠢き静瑠のペニスを奥に奥に誘いこむ。  背中に覆いかぶさった静瑠が息を荒げに俺の首筋を吸い上げ耳を嬲る。 「しずるっ それ、やめ……あぁ」  前に廻された手が俺のペニスを扱き、静瑠のペニスが俺の前立腺を突き上げる度に俺の目の前に星がちかちかと瞬く。 「竜之介さん、今日すごい。僕、もうもちそうに無い。一緒にイこ」  俺のペニスを握った手が早急に動き、俺は前からくる快感と後ろからくる快感に耐え切れず、勢いよく噴射するように吐き出した。俺の中で果てたのか静瑠の精子が腸の壁を叩きつける。 「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……っん、竜之介さん、もう一回」  俺の首筋にキスが落とされたと思ったら俺の視界は反転し向かいあう形になる。今のこの喜びに俺はただ嬉しくてせつなくて嬌声を上げることしかできなかった。 *** 「たたたたっ」 「ご、ごめんね。竜之介さん、ちょっと理性ぶっとんじゃって……」  理性がぶっとんだってもんじゃないだろ! 何回ヤったんだよ! おかげで足腰立たない! 「………ぐっ……」  文句を言ってやろうとしただけで腹筋が痛い。 「こ、これじゃ今日不動産行けないね……」 「誰のせいだと、思って……たたっ」 「今日は看病の日だね。ははっ 来週の日曜日は絶対行こうね」  笑って言う静瑠に俺も笑って頷いた。 「はぁ……やっと竜之介さんと一緒に寝れる」 「はぁ?」 「サプライズしようと思ったって言ったでしょ? だから寝室別にして隠してたんだよ。だけどそれももう意味ないしね。今日からまた一緒に寝ようね。竜之介さん」  ベットに横たわる俺の横に潜り込んできた静瑠が目を細めて笑ったかと思うと次には寝息が聞こえてきた。 「おい、静瑠、看病するんじゃなかったのかよ! ……あたたたっ」  体を起こして問い詰めるも嬉しそうに微笑んで寝る静瑠を見て、俺も体を横にし眠りについた。 END

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